三笘薫「不甲斐ない」 チェルシーの対策に苦戦…強豪移籍へ今こそ求められる警戒態勢での“違い”【現地発】
「ピッチでなかなか出し切れていないのは悔しい」
48分間で14回。12月3日のプレミアリーグ第14節チェルシー対ブライトン(3-2)で、三笘薫が相手ボックス内に切り込んだ回数だ。後半12分にベンチを出た“シーガルズ”の左ウインガーは、同34分まで敵の左ウイングにいたミハイロ・ムドリクよりも圧倒的に短い時間内で、より多くチームの攻撃に絡んでいた。
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ファンの期待度は、三笘が最初にウォームアップに出た前半30分過ぎから明らかだった。シェッドエンド(南側ゴール裏スタンド)の半分を占めたアウェーサポーターたちは、早くも2点のビハインドだったにもかかわらず沸いた。チームの依存度も同様。まるでリプレーでも見ているかのように、左アウトサイドの22番へと繰り返しボールが届いた。
だが三笘自身とっては、試合後のミックスゾーンで日本人記者陣の取材に応じてくれた約6分間で2度、「不甲斐ない」と口にする48分間だったことになる。チーム最大の武器としての責任感が言わせた部分もあるだろう。ブライトンは、過去2か月間のリーグ戦で1勝のみ。順位も10月上旬の6位から8位へと下げていた。
曰く、「もう、やるしかない」状態。三笘には、「うしろは頑張ってくれている。前の選手がどれだけいいプレーをできるかで(チームを)勝たせられる」との自覚もあった。日本代表合流を辞退せざるを得なかった右脚のハムストリングも「問題ない」とのこと。「全然できる」コンディションに戻っていながら、「それをピッチでなかなか出し切れていないのは悔しい」とも言っている。
とはいえ、そう簡単に本来のパフォーマンスを出せるピッチ上ではなかったことも事実だ。自軍は、右ウイングで先発したファクンド・ブオナノッテが、前半43分に左足シュートをゴール左下隅に決めて1点差に詰め寄ってはいた。その2分後、敵は退場者を出して10人になってもいた。しかし、三笘が入った8分後にはPKで再び2点差に。前節でのニューカッスル戦惨敗(1-4)後、ブライトン以上に勝利を必要としていたチェルシーは、攻めはカウンターに徹しつつ、リードの死守に注力できる状態になっていた。
チェルシー指揮官ポチェッティーノが講じた“三笘対策”
中でも、注視の対象とされたのが三笘だった。ロベルト・デ・ゼルビ監督が講じた4枚替えの1枚であり、同時にFWのジョアン・ペドロも投入されていたのだが、チェルシー公式サイトの実況担当も「三笘が入ってきたから要注意」だとして、警戒の必要性を訴えていた。
ピッチに立って12分後には、フェイントで相手センターバック(CB)のアクセル・ディサシを手玉に取ってゴールに迫る場面も見られた。続いて抜きにかかったチアゴ・シウバには止められるのだが、逃げ切りへの指揮を執るチェルシーのマウリシオ・ポチェッティーノは、三笘に対する警戒態勢の強化を決める。3分後には、最終ラインを4バックから5バックに変更。右ウイングバックとして投入されたイアン・マートセンに加え、2列目から下がるコール・パルマーも「対三笘」のサポートを担当するようになるのだった。
しかしながら、自らに厳しい三笘に倣って注文をつければ、このような状況のなかでも「違い」を生み出せてこそ、トップ中のトップへの脱皮が可能になる。この日と同じく、追う展開でブオナノッテとの交代でベンチを出て2ゴールを決めた第6節のようなパフォーマンスを、そのホームでのボーンマス戦だけではなく、個のクオリティーが高いチェルシーとのアウェーゲームでも再演できれば、去る10月後半の契約延長で査定額が俄然高まった後も、ビッグクラブが引き抜き意欲を強めようというものだ。
当人が「僕が(ドリブルで)仕掛けて深くまで行って、質の高いクロスを上げれば終わりの話ですけど、そこはできていない」と振り返ったように、試みた計6本のクロスや折り返しは、これもまたリプレーを見ているかのごとくブロックやクリアで対処されている。後半29分には珍しくタッチを誤り、相手ボックス内でのボールロストも見られた。
自らのシュートは同36分の1本。CKに頭で合わせたが、高さも手頃で正面をつき、難なくロベルト・サンチェスにキャッチされてしまった。ファーサイドで難しい角度ではあったが、下に叩きつけるようにヘディングを打っていれば、少しは相手GKを手こずらせることができたかもしれない。
その6分後にはPKをもらいにいく姿も見られた。ファーストタッチでマートセンとディサシの間を抜けようとして倒れたが、主審は相手DFのファウルを取らず。妥当な判定でもあっただろう。マートセンの手が軽く顔に当たってはいたものの倒れるほどの接触ではなかった。三笘の身体は、すでに前のめりになっていたように見受けられた。
三笘の反省モードに見えた頼もしさ
ただし、すぐさま改善努力の様子も見られたあたりはさすがだと言える。「1対2になった時にちょっと判断が悪くなったところもあった。もう少し配置とかを見ながらやってもよかった」との意識が垣間見られたシーンがあった。
後半アディショナルタイム6分。その4分前のCKからペドロのヘディングで1点差に詰め寄り、「自分の力で何とかしなければ」との重責が多少は軽減されたのかもしれないが、オフ・ザ・ボールでクレバーな動きが見られた。ペドロ、続いてジェームズ・ミルナーがアウトサイドでボールを持った場面で、マートセンとディサシの間のスペースを突いた三笘に、フリーの状態でパスを受けてから深くえぐるチャンスが訪れた。
最終的には、素早く距離を詰めたディサシがCKへと逃れている。その9分後、自身へのパスがタッチライン沿いでカットされ、ブライトンの反撃も終わった。試合終了の笛が鳴ると、アタッキングサードにいた三笘は両手を腰に当てながら、納得がいかないという表情を浮かべていた。
ブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督は、「チェルシーよりも出来は良かった」とし、CK2本と1人少ない敵のカウンターによる「軽率な3失点」を嘆いた。しかし、その一方で攻撃的チームの主役が、「コンディションは良かったのでもっともっといこうと思っていましたけど、なかなか実力が出せなかった」との反省モードであった事実は、今後に向けて頼もしくもある。この苦しい状況を抜けたところに、“一発屋”ではないトップ6候補としてのブライトン、そのレベルを超えて優勝を争う強豪へのステップアップを遂げる三笘という、近未来像の現実味があるのだから。
(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。