Jリーグ国立決戦で5万人超が熱狂も…古豪復活は“茨の道” 逸材流出で難題直面、危険な兆候で迫られる抜本改革【コラム】

染野唯月のPK弾がJ1昇格を決めた【写真:徳原隆元】
染野唯月のPK弾がJ1昇格を決めた【写真:徳原隆元】

清水は痛恨のファウルからPK献上、土壇場でゴールの東京Vが16年ぶりにJ1昇格

 東京・国立競技場で行われた東京ヴェルディと清水エスパルスのJ1昇格プレーオフ決勝には、5万3264人の大観衆が押し寄せた。

 両チームはJリーグの開幕を翌年に控えた1992年から2年連続してリーグカップの決勝を同じ国立で戦い、ブーム最高潮の当時でも5万6000人(92年)、5万3677人(93年)だった。また今年の平均観客動員は東京Vが7981.7人、清水でも1万4393人だから、いかに破格の数字を叩き出したかが分かる。

 試合は勝利が必須条件の清水が序盤から主導権を握り左右からのクロスで揺さぶるが、東京Vも劣勢の時間帯を集中して凌ぎ切る。「2点差をつけて勝とう」と話して臨んだという清水の秋葉忠宏監督はスコアレスの前半を終えると「優勢に見えてペナルティーエリアの周りからどうフィニッシュに持っていくかができていなくて、力みもあったので、そのへんのことを話した」という。実際攻勢でも、前半の清水に明らかな決定機はなかった。

 ところがゲームは唐突に動いた。清水の中山克広が裏を狙ってボールを追うと、東京Vの森田晃樹がカバーリングに入り支配下に置くが、この時偶発的に腕に当たり清水がPKを獲得。チアゴ・サンタナがゴールネットを揺する。清水は直前に守備時には5バックの形を取るようにしていたので、それでもショートパスをつなぎ続ける東京Vにとっては重い失点となった。

 実際、清水のボランチ白崎凌兵は「東京Vも良い出来とは言えず、ゴールの匂いさえしなかった」と振り返っている。しかしアディショナルタイムに入り、終了間際の後半アディショナルタイム6分、今度は東京Vの染野唯月がボックス内へ運び込むと、清水の高橋祐治が慌ててタックルに入り痛恨のファウル。東京Vが土壇場で同点PKを決めて、16年ぶりにJ1への昇格を決めた。

「エレベーターチームにならない」を目論む東京Vは戦力アップが不可欠

 草創期に主役を演じてきた古豪同士の対決に、国立は沸いた。しかしはっきりと明暗を分けた両チームともに、まだまだ復活への道のりは厳しい。実は昨年専門誌の順位予想で東京Vを2位で昇格候補に挙げた。毎年主力が続々と個人昇格を遂げていくチームが、昨年は若手有望株の森田を筆頭に、山本理仁、馬場晴也、ンドカ・ボニフェイス、佐藤凌我らを残し、効果的な補強も目についた。ところがせっかく維持した戦力は、やはりシーズン途中から欠け落ちていく。

 城福浩監督は言う。

「このチームでは毎年主力が流出していくのが当たり前。昨年も夏に2人、冬にも4人が抜けた」

 低迷の間も東京Vの育成力は突出していた。もしアカデミーで育てた選手たちを再び呼び戻すことができたら、十分に優勝争いが可能なほどのドリームチームが出来上がる。だがせっかく育てた逸材も十分な利益をもたらすことなく次々に去り「今では同じリーグ内でも編成予算の大きな格差が生まれ、昨冬の補強も全戦全敗に終わった」(同監督)と苦境に置かれている。

 今年のJ1では、昨年J2で2位だった横浜FCが序列どおりに降格したわけで、そう考えれば指揮官が目論むように「エレベーターチームにならない」ためには、若い選手たちの伸びしろを考えても、戦力アップという難題をクリアする必要がある。

勝負弱さを露呈した清水、秋葉監督「まだまだ温くて甘いんだろうな」

 一方で、さらに深刻なのは清水だ。昨年J1での残留争いも、今年の昇格争いも、終盤まで優位な立場を確保できていた。だがどちらも土壇場で勝負弱さを露呈し、2年連続してJ2で戦うクラブ史上初めての憂き目にあった。しかも昇格プレーオフでのスタメン平均年齢は、東京Vの25.09歳に対し、清水は29.27歳。圧倒的な経験値が、シーズンの重要な勝負どころで発揮し切れなかったことを意味する。

 確かに東京V戦に限れば、ほぼ負ける要素は見当たらなかった。また好調な時は、いわきに9-1,7-1、藤枝に5-0など、圧倒的な爆発力も見せてきた。ただしリーグ終盤までは2位でFC町田ゼルビアを追走してきたわけで、結果的には残り3試合の第40節でロアッソ熊本に敗れ、最終節でも水戸ホーリーホックと分けたために、リーグ戦で自動昇格の座をジュビロ磐田に奪われ、さらには東京Vにも後塵を拝したことが致命傷になった。

 東京Vとは対照的に、清水は編成予算では同カテゴリーでは優位な立場にある。だがそれでも結果を伴わないのは、最近のジェフユナイテッド千葉や大宮アルディージャなどの例を見ても危険な兆候だ。秋葉監督は宣した。

「まだまだ温くて甘いんだろうな。オフには見つめ直して、いろんなものを変えていきたい」

 ここ数年間の状況を振り返れば、もはや抜本的な改革を迫られる事態が迫っているのかもしれない。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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