史上3人目のJ1、J2、J3のタイトル獲得 森脇良太が語る、愛媛がJ2復帰を勝ち獲れた訳【インタビュー】
若き日に成長させてくれた愛媛FCへの“恩返し”の気持ちでJ2復帰&J3優勝に貢献
愛媛FCは11月11日に行われたFC今治との「伊予決戦」に1-0で勝利して、3年ぶりとなるJ2昇格を決めた。元日本代表DF森脇良太は、「本当に愛媛FCファミリーみんなで掴み取ることができて良かった」と喜んだ。
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森脇と言えば、日本代表が最後に優勝した2011年のアジアカップで日本代表メンバーの一員として戦った実力者であり、サンフレッチェ広島や浦和レッズでの活躍を覚えているサッカーファンも多いだろう。だが、そんな森脇が初めてプロ選手として名を上げたのは、広島から2シーズンにわたってレンタル移籍した愛媛FCだった。
2021年に京都サンガF.C.を契約満了になった森脇は、J3という過去にプレーした経験のないカテゴリーにいた愛媛への復帰を決めた。
「J3に降格して大変な思いをしているなか、僕自身も京都との契約が満了して、『チームをどうしようかな』と考えている時に愛媛FCが手を差し伸べてくれたんです。若い頃に2年間、めちゃくちゃお世話になって、僕自身も愛媛FCにかなり成長させてもらいました。そのクラブにもう1回、自分がいろいろな経験を積んでから戻れるわけですから、オファーをもらった時は感謝の気持ちと『絶対に再びJ2に昇格させる』という思いだけでした。もう1回、Jリーグのピッチで戦える経験をさせてもらえることになり、『なんとしてもこのチームに貢献したい』『持っているすべてを捧げたい』と思いました。戻ってきてからは、『J2復帰』『J3優勝』を目指して、ここまで戦ってきました」
年齢を重ね、フィジカル的にもピーク時からは衰えもあるなかで、森脇は持ち前の明るさでチームの雰囲気を盛り立て、自身の経験を惜しみなくチームメイトたちに伝えていった。一方で、森脇自身はJ1と異なる2つカテゴリーが下のリーグの違いにも、苦しめられた。
「難しさはありましたね。J1とJ3で言えば、サッカーの質も違います。サッカーのクオリティーも全然違う部分があるので。J3はよく『戦いだ』と言われますが、本当にピッチ内で球際など戦うんです。大変なリーグであるのは、間違いなかったです」
それでも、1シーズン目の2022年を戦いながら「このチームは絶対に昇格できる」という思いも強くなっていった。
「昨シーズン(7位)は結果が残せませんでしたが、それでもこのメンバーがいれば、間違いなくJ3で優勝できる。J2復帰という目標に到達できるという思いを持ち続けて戦ってきました」
森脇が今季のターニングポイントに挙げる開幕戦大敗後のリバウンドメンタリティー
今シーズン、愛媛FCは第35節を終了した時点で20勝10分5敗という成績を残している。そして、ここまで挙げた20勝のうち18勝が1点差ゲームをものにしたものだ。森脇も、「優勝できたのは、負けなかったことが本当に大きかったと思います。1点差のゲームがほとんどでしたが、シーズンを戦っていくなかで勝負強さを身に着けて、我慢強く、歯を食いしばって戦えたと感じます。試合だけではなく、普段の練習から切磋琢磨して、しのぎを削って激しいバトルに身を投じて、ポジションを競って、選ばれた選手が試合に出る。だからこそ勝てていたと思いますし、みんなの意識が練習に向いていたのは大きな要因だと思います」と、語る。
練習を含めたピッチ内では激しく競い合うが、一度ピッチを離れると「本当に兄弟のような関係が築けている」という。
「そういう時に、他愛もない話をするなかで『今後のリーグ戦どうかな』という話題が出ると『90分間、我慢するんだ。我慢できれば、最後の1分で点が取れるチームなんだ』という話になるんです。そういう日常から我慢強さがみんなの中に意識として伝わり、試合にも表れたと思います。普段の他愛もない会話って、ものすごく重要なんだなというのは今シーズン改めて感じましたし、とにかくいろんな選手を巻き込んで、ポジティブなエネルギーが充満するようにしたいなとは意識していました」
そんな森脇が今季のポイントだと感じるのは、どの試合なのか。「前日のことを寝たら、すぐ忘れてしまうタイプ」と苦笑したが、忘れられなかったというのは、いわてグルージャ盛岡に1-5と大敗したホームで行われた開幕戦のあと、チームが見せたリバウンドメンタリティーだった。
「開幕戦に1-5と大敗して厳しいスタートを切りました。僕自身も昇格できると思って臨んだ初戦だっただけにショックでしたし、チームもあの後はちょっと顔が下を向いていたかなと思います。だからこそ、みんなに開幕戦が終わった次の練習から『上を向いていこうよ』『このチームなら跳ねのけていける』というのを先頭に立って伝えたかったですし、みんな開幕戦に負けて悔しい思いをして『2節からは絶対に取り返す』『ここからもう一回。愛媛は這い上がっていく』という意思を感じられました」
森脇が伝えようとしたポジティブな雰囲気は、チームに広がっていった。そして苦しい戦いを強いられながらも、愛媛FCは第2節以降、第10節まで5勝4分けと負けることがなかった。
「あそこで負けないチームになれたことが、振り返ると愛媛FCにとってのターニングポイントになったと思います。あの開幕戦からのリバウンドメンタリティーは、J3優勝のタイトルを獲得するには大きかったと思います。今シーズンの愛媛FCには若い選手もたくさんいますが、第2節から負けることなく結果を出して、成功体験を掴みながら自信をつけられたと思います」
今季残り試合で「J3で優勝したけどもっと上に行くんだ」という覚悟を示す
このJ3優勝によって、森脇はJ1、J2、そしてJ3と、すべてのカテゴリーで優勝を経験する史上3人目の選手となった。だが、森脇は「僕自身は本当に、ポツンとそこにいさせてもらっているだけ(笑)。本当に素晴らしい選手に巡り合うことができて、幸せだなと感じています。多くの方々の支えがあって、僕自身もタイトルを獲らせてもらっているので、たくさんの方々に感謝しないといけないと思っています」と、謙虚に語った。
来シーズンは森脇自身、愛媛FCの一員として再びJ2の舞台に立つことになるかもしれない。だが、「まずは残りJ3が3試合ある」と、今シーズンの残り試合の重要性を説いた。
「残りのJ3の試合で自分たちが進んでいく道、J2でも戦える、戦うんだという姿を、見せないといけないと思っています。2023年シーズンの試合は大事にしたい。来シーズンはJ2で、本当に厳しい戦いが待ち受けていると感じています。みんなにも『J3で優勝したけど、もっともっと愛媛FCは上にいくんだ』『もっともっとこの素晴らしいクラブを日本全国に伝えていくんだ』という覚悟、ピッチで結果を出す意思を、今から持ち続けないといけないと思っています。同時に僕自身も来シーズンの契約はまだなので、引き続きお世話になることがあれば、もう1回チームとして、そういう部分を共有してJ2の大舞台に臨んでいきたいという思いは強いです」
J2への切符を手にした「我慢強い」愛媛FCは、残り3試合でさらに勝利への強い執念を示して、来シーズン、チームとして2度目となるJ2の舞台に臨んでいく。
[プロフィール]
森脇良太(もりわき・りょうた)/1986年4月6日生まれ、広島県出身。広島ユース―広島―愛媛―広島―浦和―京都―愛媛。J1通算302試合・19得点、J2通算123試合・9得点、J3通算32試合・0得点、日本代表通算3試合0得点。豊富な運動量と卓越したビルドアップ能力で数々の試合に出場してきた大ベテラン。ムードメーカーとしてもチームに不可欠で、史上3人目となるJ1、J2、J3の全カテゴリーでタイトルを獲得した。人気を誇った“調子乗り世代”の1人でもある。
(河合 拓 / Taku Kawai)