三好康児、英雄ルーニー監督下で奮闘 「耐え凌ぎやるしかない」…英国バーミンガムでの現在地【現地発】

今季からバーミンガムでプレーする三好康児【写真:Getty Images】
今季からバーミンガムでプレーする三好康児【写真:Getty Images】

スタメンに定着し始めた矢先、監督交代で状況が一変した三好康児

「サッカーの世界では監督が変わることはしょっちゅうありますし、また一からの競争になる。そのなかで自分の特徴をどうやって出せるかというところだと思っています。成長につなげていければ」

 ありがちなようでいて、聞き手を安心させてくれる言葉だった。発言の主は、今年6月にバーミンガム・シティ(英2部)入りした三好康児。11月4日、新たにホームと呼ぶセント・アンドリューズ・スタジアムでの今季チャンピオンシップ第15節で、雨降る体感温度5度のイプスウィッチ・タウン戦(2-2)を終えた直後の表情は思いのほかに明るかった。

 正直、心配していた。10月11日に発足したウェイン・ルーニー新体制下での試合は、これが4試合目。3連敗となった過去3戦では、計1時間44分の出場にとどまっていた。先発の機会を与えられた第13節ハル・シティ戦(0-2)は、監督交代後のホーム初戦からブーイングが聞かれたように、チームとしての出来が今季最低レベルだった。トップ下を務めた三好に対しても、地元紙「バーミンガム・メール」では及第点以下のニュアンスが強い10点満点中5点の評価が下されていた。

 ジョン・ユースタス前監督の下では、開幕2か月目にしてスタメン定着の感があった。4-2-3-1システムのトップ下、あるいは右アウトサイドで持ち前のテクニックとセンスを発揮し始めた三好は、チーム待望のチャンスメイカーとして地元メディアでも好評だった。サポーターのハートは、第3節ブリストル・シティ戦(2-0)で掴んでいたようなもの。ベンチを出てのファーストタッチでマーク2枚を剥がし、鮮烈なボレーで移籍後初ゴールまで決めている。

 ところが、加入翌月にクラブを買収したアメリカ系オーナーによる“実より名を取った”格好の監督交代を境に状況が一変した。リーグ6位につけていたチームは、オーナー祖国のD.C.ユナイテッドを去って3日後に就任した新監督の下で順位を下げ始め、前線のキーマンとも言えるインパクトを見せていた三好の出場時間も減り始めた。

 第14節サウサンプトン戦(1-3)でのトップ下は、まだ19歳だが身長190センチのジョーダン・ジェイムズ。右ウイングでも、年齢は三好と同じ26歳ながら、188センチで見た目に頑強そうなオリバー・バークが先発していた。現役当時、力と技を併せ持つワールドクラスのFWだったルーニーの目には、日本人選手としても小柄な167センチのMFが強度不足と映っているのではないかと思われた。実際、今節のピッチ入場時も、193センチのGKジョン・ラディを含む守備陣に続く4番手だった三好の姿は一際小さく見えた。

バーミンガムの指揮を執るウェイン・ルーニー監督【写真:ロイター】
バーミンガムの指揮を執るウェイン・ルーニー監督【写真:ロイター】

「すごく良い兆しなのかな」 見え始めた“ルーニーのチームらしい”姿

 しかしいざ試合が始まると、その存在感は決して小さくなどなかった。キックオフから3分足らずで、的確なコントロールからボックス内へとスルーパスを送っている。試合後の本人が「“ポケット”と呼ばれる相手の間のスペースをとって、そこからのラストパスや、自分が得点に絡んでいくようなプレーを求められています」と説明していた、三好らしいプレーを前半早々から垣間見せていた。

 体格で勝るDFに詰め寄られても、重心の低い自身の身体を相手とボールの間に入れて粘り強くキープする。カウンターでパスを受けてフリーキックを奪ったのは前半6分。先制1分前の同12分には、守備でも身体を張って敵のファウルを誘い、マイボールへの切り替えに一役買っていた。

 集団としても、ルーニーのチームらしい攻めの姿勢は明らかに見て取れた。結果的には、後半6分の速攻が誘った敵のオウンゴールで広げた2点差を追いつかれてしまう。だが、終盤に守備固めでベンチに下がったはずだった三好自身も、「すごく良い兆しなのかな」とチームパフォーマンスを振り返っている。

「今日は守備のところから全員が目的意識を持って、前半の入りも良かったですし、前からのプレスのところ、そこを継続しながら点も取れていた。後半も最初は追加点を取れていました。

 最後、監督も言っていましたけど、少し疲れてきたところで支配されだして、追いつかれてしまったというのが現実なのかなとは思います。ここ4試合勝ちがないですし。ただ、逆に言えばまだ4試合。チームとして戦わなければいけないなかで急に監督が代わるというのは、誰が監督だとしても簡単なことではないと思います。まだチームとしてやっていくことを確認している段階でもある。でも、明確なやり方を少しずつ掴んできている部分はあります」

結果が出ずともバーミンガムが示す“伸びしろ”

 その具体例として、三好も触れたプレッシングがある。GKを起点としてうしろからつなぐスタイルへのこだわりに関しては、一旦、ルーニー自身によって前節の時点でハンドブレーキが引かれた。持ち駒の適性や、失点を招くリスクを考慮した現実的な判断だ。

 そもそも、監督交代前の上位浮上もポゼッションを重視した戦い方によるものではなかった。今季リーグ戦で勝利を収めた5試合のボール支配率は平均42.4パーセントでしかない。加えて、新監督が志向する戦い方を実行に移すための枠組みも定まってはいない。4-3-3、4-2-3-1、そして今節は4-2-2-2と見受けられたシステム選択は、柔軟というよりも試行錯誤を思わせた。

 ただし、ボールを持って攻め続けるうえで必須となる前線からのプレスは、取り組み姿勢が強められている。その様子は、攻撃時には腕組みをして静観を決め込んでいても、攻守が入れ替わった途端、プレッシャーをかけるべき相手を指差しながらテクニカルエリアで指示を叫ぶ指揮官の姿からも窺い知れた。

 4割強でしかなかったボール支配率以上の優勢を思わせた前半は、三好も攻守に果敢だった。例えば、前半30分過ぎからの12分間。相手センターバックへのプレッシングにダッシュしたかと思えば、自らはプレッシャー下でもボールを要求し、再び攻守が入れ替わると、素早く敵のボールホルダーとの距離を詰めてボールロストを誘発するという忙しさだった。

 後半40分、逃げ切りを狙った5バックへの変更でピッチを降りた三好は、ベンチ前で出迎えたルーニーに頭をポンと叩かれてハードワークを労われている。曰く、「誰もが知っているレジェンドな選手なので、練習の段階から彼の経験を踏まえたうえで伝えてくれる」新監督。三好にとっては、「ボールを保持して施行していくところはすごく好き」なサッカーを理想として目指す指揮官でもある。

 もちろん、新体制1か月目の現実は、三好も認識しているように「負けたり、今日も最後は引分けたりして悔しい部分はありますけど、耐え凌ぎながらやるしかない時期」にほかならない。だが、それだけに、この日の結果は前向きに受け止めるべきだろう。20分ほどの残り時間で2ポイントを落としたのではなく、ここ4試合で最高の51分間が監督交代後初のポイント獲得を可能にしたのだ。

 前回のホームゲームとは違い、勝利という結果が得られなくても、15位へとさらに順位を下げても、セント・アンドリューズにブーイングは起こらなかった。新監督とその一行は、ファンの声援を耳にトンネルへと消えていった。改修工事中の現状では満員に当たる約2万人の前で示したのだ。改めてポジション争いに挑む日本人新戦力を含むルーニーのバーミンガムには、今後への伸びしろがあることを。

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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