「鎌田大地をプレーさせなかったのを悔いている」発言の本意は? ラツィオ知将サッリの決断と「たられば」【現地発】

ラツィオの鎌田大地【写真:Getty Images】
ラツィオの鎌田大地【写真:Getty Images】

CLフェイエノールト戦、ラツィオの鎌田はベンチ入りも出番なし

 10月25日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)グループステージ第3戦で、鎌田大地がプレーするイタリアのラツィオは敵地でのフェイエノールト戦で1-3と敗れた。試合終了のホイッスルが鳴ると、歓喜に沸くフェイエノールトファンの歓声を聞きながら、ラツィオの面々は足早にピッチを去っていく。この日ベンチ入りしたものの、ピッチでプレーする鎌田の姿はなかった。

 ラツィオ監督のマウリツィオ・サッリが試合後の記者会見で「鎌田をプレーさせなかったのを悔いている」という趣旨のコメントをしていたが、この発言の本意はどこにあったのだろうか。

 サッリはほかにも「今日のフェイエノールトのようなチームと対戦する時に、よりスキルか、それともフィジカルコンタクトを重視するかが決断のベースになってくる」「テクニック面でのマイナス部分はあったが、(マテオ・)ゲンドゥージのゲームだと思った」というコメントをしていることから、フェイエノールトのハイプレスに対してフィジカルベースで対抗しようと決断したことが読み取れる。

 とはいえ、守備一辺倒になるつもりはもちろんなく、上手く相手のプレスを外して攻撃へと移行するアイデアと狙いをもって試合へと入ったはずだ。前半30分過ぎまではフェイエノールト優勢の展開ながら危険なシーンはそこまで多くはなく、相手の勢いが少し落ち着いてきたことで流れを引き寄せるチャンスもあった。

 4万4000人の熱狂が渦巻くフェイエノールトのホームスタジアムで、昨季CL決勝トーナメント1回戦でナポリと対戦したフランクフルトを思い出した。ホームでの一戦でファンの大歓声をバックに、試合開始からハイインテンシティーでプレスをかけていく。相手を押し込み、チャンスも作り出す。このままいけば、そんな期待をファンに抱かせ続けていた。

 だが最後のところで押し込み切れず、逆に自分たちのバランスが一瞬ずれたところを突かれて3失点。ハイプレスがはまっているという実感は、選手を無意識のうちに前がかりにさせて、中盤の危ないところへスペースを空けてしまったりする。フランクフルトはあの日そうやって負けた。

 当時、鎌田は試合後にこんなふうに振り返っていた。

「自分たちは前半いい入り方をしていたと思うし、戦術的にも何も問題なくできていたと思います。ただやっぱりワンチャンスをものにされたり、その少しの差というのがこういう試合で出るなっていうふうに思いました」

 ただ、この日のラツィオはあの日のナポリにはなれず、この日のフェイエノールトはあの日のフランクフルトのように崩れなかった。

鎌田が中盤に入れば相手のプレスの矢を折ることもできたかもしれない

 フェイエノールトのプレスはハイインテンシティーの連続で、相関性も素晴らしかった。ラツィオにビルドアップからの展開を許さない前からの全力プレス、かわされても引かずにさらに二の矢、三の矢を打ち込んでいく。そして前線ではメキシコ代表FWサンティアゴ・ヒメネスが違いを生み出し、リードを広げる。

 サッリの発言どおり、鎌田が中盤に入ればフェイエノールトのプレスの矢を折ることもできたかもしれない。攻撃へ転じる精度とタイミングをアップさせて、ゴールへの道を作りだすこともできたかもしれない。ただ、そこで変化が生じなかった場合、さらに押し込まれる展開になることだってあったかもしれない。

 監督というのは何周も考える。さまざまなパターンを思い描く。脳内シミュレーションを何度も繰り返し、無数の「たられば」(~していたら/~していれば)を行ったり来たりする。

 外から見て「なんでそんなことをするの?」「なんでこうしないの?」という問いを何度も通り超えて、ベストの選択肢を見つけようとして、確信をもって決断をする。だがそれが確実にハマるという保証もない。決断をするのは大変なことなのだ。加えてCLグループステージで3位、セリエAで9位と苦しんでいるチーム事情によって、より多くの考える要因が出てきたりする。

 そんななか、思っていた以上に納得のいかないパフォーマンスで完敗となった試合は、腹をくくったり、決断を整理する要因にもなるはずだ。サッリはチームに対して「試合への心構えが最適だったのか」という指摘もしていた。今後、鎌田起用が「たられば」を超えて、「中盤における主導権を握る大事な役割を担う選手」という確信とともに起用されるようになるかもしれない。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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