19歳・中井卓大の決断、なぜレアルから移籍? 名門の“狭き門”突破後に直面した大きな壁と現実、新天地で定位置奪取へ【現地発】

レアルを離れて新たな一歩を踏み出した中井卓大【写真:Getty Images】
レアルを離れて新たな一歩を踏み出した中井卓大【写真:Getty Images】

レアル・マドリードのBチームを離れ、ラージョ・マハダオンダへ期限付き移籍

 20歳を迎える節目となる今季、中井卓大は長らく過ごしたレアル・マドリードを離れ、さらなる成長を求めて新たな一歩を踏み出した。

“ラ・ファブリカ(工場)”の愛称で呼ばれ、優秀な選手を数多く輩出し欧州屈指の育成機関として誉れ高いレアルの下部組織に中井が入団したのは10歳の時の2014年夏だった。それ以降、8カテゴリーを順調にステップアップしていき、ユース年代のトップカテゴリーであるフベニールAからわずか4人しか昇格できなかった狭き門をくぐり抜け、昨季はクラブのレジェンドであるラウール・ゴンサレス指揮するBチームのレアル・マドリード・カスティージャに所属した。

 しかしそこで大きな壁に直面することになる。昨年9月にプリメーラRFEF(3部相当)デビューを果たすも、前年度の主力メンバーの多くがそのまま残っているチーム内において、激しいポジション争いに苦しみ、最終的にリーグ戦2試合、わずか4分間の出場でシーズンを終えた。

 レアルで育成された選手たちは、いつの時代においてもスペイン内外問わず高く評価されている。例えば昨季、“ラ・ファブリカ”の選手を欧州5大リーグ(スペイン、イングランド、イタリア、ドイツ、フランス)のクラブに43人輩出したが、これは2位FCバルセロナ(38人)、3位パリ・サンジェルマンとリヨン(34人)を抑えトップの数字である。

 今季も例に漏れず、攻撃の中心的役割を務めたMFセルヒオ・アリーバスがアルメリア、中井のポジション争いのライバルの1人だったMFカルロス・ドトールがセルタ、FWオスカル・アランダがポルトガル1部ファマルカンに完全移籍、FWマルビン・パクがラス・パルマスにレンタル移籍といったように、トップリーグに巣立っていった。またそれと入れ替わるように今季、昨季のフベニールAで3大会すべてに優勝するという偉業を成し遂げた選手たちが何人もカスティージャに昇格している。

 ポジション争いに勝ち抜くことが難しかったチームで1年を過ごした中井は今夏、大きな決断を下すことになった。しかしその去就について、さまざまな情報や憶測が飛び交っていたが、正確な情報を掴んでいたメディアはほとんどいなかったと言えるだろう。

スペイン3部ラージョ・マハダオンダへ期限付き移籍した中井卓大。9月2日、ホームの第2節ヒムナスティック・タラゴナ戦で新天地デビュー【写真:高橋智行】
スペイン3部ラージョ・マハダオンダへ期限付き移籍した中井卓大。9月2日、ホームの第2節ヒムナスティック・タラゴナ戦で新天地デビュー【写真:高橋智行】

チーム選びで出遅れるも新天地でデビュー、「とても嬉しい」と喜びを露わ

 8月16日、中井はプリメーラRFEF・グループ1に属するラージョ・マハダオンダへの1年間のレンタル移籍が発表された。選んだ理由として中井は、クラブの会長や監督に切望されたこと、プレースタイルがレアルに似たショートパス主体であること、マドリード州のクラブのため住まいや生活環境が変わらないこと、そして昨季ほとんど出場できなかったカスティージャと同じカテゴリーのリーグにもう一度挑戦したいという気持ちが強かったことを挙げた。

 ほかにもラ・リーガのBチーム、プリメーラRFEF、ポルトガル、オランダ、ベルギー、J1など、多数のクラブからオファーがあったことを明かしていたが、最終的に昨季やり残したことへのチャレンジを選択したようだ。

 中井は今季開幕戦となった8月26日のデポルティーボ・ラ・コルーニャ戦(0-0)にベンチ入りするも出番は回ってこなかった。本人はその理由について、チーム選びが長引き、プレシーズンの約2か月間でチーム練習に参加できなかったことや昨季試合に出ていないためコンディションが落ちていたこと、そして新チームへの合流が遅れたためと説明した。

 中井に新天地デビューの瞬間が訪れたのは、9月2日にホームで行われた第2節ヒムナスティック・タラゴナ戦。大粒の雨が降るなか、1-1の同点で迎えた後半37分、カスティージャ時代と同じ背番号16のユニフォームをまとって途中出場した。

 中井は中盤ダイヤモンドの4-4-2の左サイドハーフで起用され、監督に求められている「ボールを失わずにゲームを作る」という役割を全うし、チームメイトと上手く連係してつなぎ役に徹した。また守備時はディフェンスラインまで戻り、ルーズボールに対しては身体を投げ出すという献身的な姿勢を見せた。中井にとっては新たな未来への大きな一歩を踏み出した瞬間となり、「だんだんコンディションが戻ってきて、10分出させてもらったのでとても嬉しい」と喜びを露わにした。

加入から短期間で可愛がられている中井、チームの雰囲気は「一言で言うと“最高”」

 ラージョ・マハダオンダは1976年6月7日創設で、今年48年目を迎えた歴史あるクラブ。過去、2018-19シーズンに1度だけセグンダ(2部)を戦ったことがあった。昨季もプリメーラRFEFに属し14位でシーズンを終えていた。

 ホームスタジアムのセロ・デル・エスピノは、マドリード州マハダオンダにあるアトレティコ・マドリードの練習場内にあり、収容人数は3865人。市の所有物であるため、両クラブは1997年から共同使用の協定を結んでいる。そのため同じカテゴリーのグループ2に属するアトレティコ・マドリードのBチームのホームスタジアムでもあり、トップチームの練習場にもなっている。

 監督を務めるカルロス・クラはマドリード出身の36歳。アトレティコの下部組織でコーチ業をスタートし、今季ラージョ・マハダオンダ監督に就任した。昨季所属した選手は数人しか残っておらず、ヒムナスティック戦のベンチ入りメンバー21人のうち19人が新加入と、総入れ替えに近い状態だ。そのため、第1節と第2節のレギュラーが1か所しか変更されていないことや加入の遅れは懸念されるものの、中井はこのままコンディションを上げていけば、十分スタメン入りのチャンスがあると思われる。

 このチームにおいて19歳の中井は、17歳の正GKダニ・マルティンに次いで若い選手。加入からわずか2週間ほどだが、すでにみんなから可愛がられているとのことで、チームの雰囲気を「一言で言うと“最高”」と表現し、「ベテランの選手たちからいろいろなことを学びたい」とポジティブに語っていた。またプレー面に目を向けると、中井は今季、自身が希望する8番(攻撃的MF)のポジションでプレーさせてもらえるとのことで、その点でもやりがいを感じているようだ。

 10月24日に20歳の誕生日を迎え、スペイン生活も10年が過ぎようとしている今、新たな挑戦を選択した中井は、「昨シーズン試合に出られなかった分、たくさん試合に絡んで、スタメンでもベンチスタートからでも自分らしいプレーで全力を出したい。試合に出るのは当たり前として、ゴールにこだわりたいなと思っているし、二桁ゴールできたらいいなと思っている」と今季の目標を力強く語っていた。

 慣れ親しんだ環境から一歩踏み出した今季、中井にとって充実し飛躍するシーズンとなることを期待したい。

(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)



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高橋智行

たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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