スペインはもう鬼門ではない? 現地記者3人に訊いた日本人選手リアル評【現地発】
久保や乾はラ・リーガに適した選手
スペイン1部レアル・ソシエダの日本代表MF久保建英は昨季、リーグ戦9得点7アシストを挙げ、ラ・リーガにおける日本人最多得点記録を更新した。世界最高峰と言われるラ・リーガは一昔前までは“鬼門”だったが、元日本代表MF乾貴士(現清水エスパルス)の登場以降は、そのジンクスは破られつつある。現地のスペイン人記者3名に、日本人選手の印象について訊いた。
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■ロベルト・ロマホ記者
(スペイン紙「AS」、スペインのラジオ局「カデナ・セール」のレアル・ソシエダ番記者)
Q1:スペインでの日本人選手の印象。
「私は以前、エイバル担当の時に乾貴士をよく見ていたし、今は久保を追っているが、彼らは日本人の中でも特にラ・リーガに適した選手だと思う。スペインでは通常、日本人は監督の要求に忠実で、生真面目すぎる選手として語られることが多い。しかし、乾や久保は典型的な日本人選手とは違い、ある種の斬新さやクオリティーの高さを兼ね備えている。彼らはスペインの厳格な戦術の枠を飛び越え、チームにとってクリエイティブかつ優れたフィニッシュワークの能力を備えた選手になっている」
Q2:スペインのクラブが日本人選手を欲しがっていると思うか?
「久保のパフォーマンスのおかげで、スペイン人にとっての日本人選手の印象は以前と比べて大きく変わったと思う。彼がこれまでにラ・リーガでやってきたことを踏まえれば、スペインのどのクラブも日本人選手を欲しがるはずだ。実際、ラ・レアル(ソシエダ)は今夏、鎌田大地(今夏にイタリア1部ラツィオに加入)を狙っていたが、年俸が高すぎたので最終的に獲得には至らなかった。ワールドカップ(W杯)での日本代表の活躍を見たスペインのクラブは、チャンスがあれば日本人選手を獲得したいと思っていると言っていいだろう。過去を振り返ってみると、日本人選手はどうしても言語がハンディキャップになるし、スペインサッカーへの適応が困難なのは確かだが、それでも近年、スペインのクラブは定期的に日本人選手の動向を追っていると思う」
日本人選手の獲得は経済面でもメリット有
■ミゲル・アンヘル・ディアス記者
(スペインのラジオ局「カデナ・コペ」のレアル・マドリード番記者)
Q1:スペインでの日本人選手の印象。
「今のスペイン人にとって、リーガ・エスパニョーラに日本人選手が在籍していることになんら驚きはないだろうね。20年前、日本人選手は稀な存在で、ビッグクラブはもちろんこと、ラ・リーガ1部のクラブでプレーする資質があるかどうかを疑われていた。しかし近年、アジアのサッカーが大きく成長したことは明らかであるし、日本人選手がスペインのクラブに所属していることを誰もおかしいとは思っていない。
私は過去にスペインでプレーした日本人選手、中村(俊輔)やマジョルカの大久保(嘉人)、エイバルの乾などのことを覚えているよ。そして今は久保がスペインで特に素晴らしい飛躍を遂げているし、さらにラ・リーガを代表する選手の1人になれる可能性も秘めている。これまでレアル・マドリードに所属しつつ、マジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェといった多くのクラブでプレーした経験を生かして、今はレアル・ソシエダで成功を収めているが、彼はそこでも特に決定的な働きができる選手だよ」
Q2:久保の活躍によりスペインでの日本人選手に対する印象が変わったと思うか?
「久保が日本人選手の印象を大きく変えたのは間違いないと思う。なぜなら、スペインでこれまでプレーしたどの日本人よりも決定的な活躍を見せている選手だからね。連係面で非常に優れ、とても魅了的なサッカーをしているレアル・ソシエダの中でも、彼は今、特に見ていて楽しい選手と言えるだろう。私は久保がイマノル(・アルグアシル監督)の構想の中でも特に重要な選手の1人だと思っている」
Q3:スペインのクラブが日本人選手を欲しがっていると思うか?
「現在、経済的にデリケートな時期を過ごすスペインのクラブにとって、日本人選手の獲得はスポーツ面以外の点においてもメリットがある。クラブは彼らを通じて、他国でイメージアップを図ることを非常に重要視している。日本人選手や韓国人選手が所属しているスペインのクラブでは、自国の多くの記者が取材に訪れている姿を見かけるが、それらすべてが商業的に大きな影響を与えるものとなっている。このことはスペインのクラブにとって非常にいいことであるし、新たな収入源になり得るものでもある」
久保、乾、大久保以外は印象に残らず?
■マウリ・イディアケス記者
(スペインのラジオ局「カデナ・コペ」のレアル・ソシエダ番記者)
Q1:スペインでの日本人選手の印象。
「今まで見てきた日本人選手から、真面目で責任感があるという印象を受けている。彼らには人を騙したりせず、努力を怠らない文化的背景がある。ここスペインでは相手を欺いたりするからね(笑)。久保もスペインからちょっとしたテクニックを学んでいるとはいえ(笑)、彼がファウルを受けて倒れるということは、本当にダメージを受けているということだろう。
最近のスペインにおいて、日本人選手の印象を左右したのは久保にほかならない。これまでマジョルカやビジャレアル、ヘタフェへの期限付き移籍では活躍できなかったが、ようやく自分にとって最適な場所を見つけることができた。昨季9ゴールを決めただけでなく、今季も開幕戦で得点を挙げ、素晴らしい試合をやり遂げていた。久保以前、あんなにも優秀な日本人選手はスペインにいなかった。乾はエイバルに所属し、ベティスに移籍したが成功できなかったしね。久保はここで安定したパフォーマンスを発揮しており、我々はそのプレーに惚れ込んでいる。だから今夏、ナポリが彼を狙っているというニュースが流れた時、我々はみんな、怖がったものだよ」
Q2:久保の活躍によりスペインでの日本人選手に対する印象が変わったと思うか?
「うーん、久保のことはよく知っているし、ほかにはエイバルでいいパフォーマンスをしていた乾や、かなり昔にマジョルカに大久保がいたくらいは覚えているけど、この3人以外の日本人選手というと… 印象が変わるほど覚えてはいない」
Q3:スペインのクラブが日本人選手を欲しがっていると思うか?
「それはスペインサッカーに上手く適応できるかどうかがとても重要になると思う。その点でラ・レアルは、すでにスペインとラ・リーガに上手く適応していた久保と契約したんだ。特にラ・レアルは個人的な要素に非常に多くの注意を払うクラブだからね。いい選手であること以上に、真面目で、責任感があり、夜遊びをせず、自分の身体に気を配る選手でなければいけないが、我々は久保の発言のはしばしからそれを確信していたよ」
(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)
高橋智行
たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。