“食のスペシャリスト”小泉勇人氏の「アスリート飯」 試合への入念な準備を元Jリーガーが伝授

現役時代より自身の料理をSNSで発信してきた小泉氏【写真:本人提供】
現役時代より自身の料理をSNSで発信してきた小泉氏【写真:本人提供】

【インタビュー】努力を無駄にしない、身近な人を守る基礎知識を身に着けよう

 食事は、選手の身体に合った栄養管理を徹底し、最大のパフォーマンスを発揮するための要素の1つだ。「FOOTBALL ZONE」では「サッカー×食」のテーマで特集を組み、元Jリーガーで、現役時代より食に関する専門的な知識を学びSNSを通して自身の料理を発信してきた小泉勇人氏を直撃する。

 第1回は、そんな小泉氏にアスリートに重要となる食事について伺う。18歳の時にプロサッカー選手の門を叩き、上級食育アドバイザー、野菜スペシャリスト、アスリートフードマイスターなど、数々の資格を持つ小泉氏は、今年2月に選手を引退。「株式会社en’s life」を設立。「食を起点に多方面から人生を豊かに」という理念のもとに、さまざまな活動を幅広く行っているなか、小泉氏の考える“アスリートの食事”とはどんなものなのか。(取材・構成=河合 拓/全2回の1回目)

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 食事というのは、生涯ずっと続く営みです。人の身体と心は、食べたものから作られていきます。誰にとっても非常に重要なものですが、特にアスリートにとっては良い食事を摂ることは極めて重要です。筋肉はトレーニングをしたら分解されます。どれだけ質の良いトレーニングを重ねても、筋肉が分解されたままでは意味がありません。その状態でトレーニングを続ければ、むしろ身体が弱くなってしまう危険性すらあります。

 具体的にどのようなメニューが良いかを紹介する前に、まずはどうしても抑えておいていただきたい基礎知識があります。私たちには生きていくうえで、食品から摂り入れることのできる5つの栄養素が欠かせません。炭水化物、ビタミン、ミネラル、タンパク質、糖質であり、これを5大栄養素と呼びます。

 それぞれを簡単に説明すると、炭水化物は糖質と食物繊維に分類されます。糖質は脳や体のエネルギー源となり、食物繊維には整腸作用、便秘や肥満を予防します。ビタミンやミネラルは体の機能の維持や様々なサポートをし、タンパク質は筋肉や皮膚などを作ります。そして、取りすぎると良くない脂質も、タンパク質と同じくエネルギー源になり、細胞膜を構成する重要な成分です。

 この5大栄養素をどのようなバランスで摂るべきかは、その人が一般人なのか、アスリートなのか。成人なのか、子供なのか。さらにはアレルギーなどの体質やどういった目的で食事をするのかといったことでも変わってきます。基本を抑えるとともに、自分に合ったバランス、量、質、さらに食べるタイミングを意識することが重要になります。

 人それぞれ何を基準とするかは異なるし、体質も異なります。2人の人間が同じものを食べたり、同じことをしたりしても、遺伝や人種の違いもあって、現れる効果が必ずしも同じものになるとは限りません。むしろ異なる方が多いでしょう。ある人に良い効果があったとしても、同じことが自分に当てはまらないかもしれません。なりたい自分になるためには、頑張ることは当たり前ですが、効率の良い頑張りをしないと努力も無駄になります。努力を無駄にしないように基礎知識を付けて、効率の良い取り組みをするようにしましょう。

プロ時代の食事と、子供に与えるべき食事内容

現役Jリーガー時代の食事の一例【写真:本人提供】
現役Jリーガー時代の食事の一例【写真:本人提供】

 これはJリーガー時代の食事の一例です。主食、汁物、主菜が2品、副菜が2品という構成です。主食としては、酵素玄米を食べていました。白米はエネルギーになるのですが、血糖値を上げやすいことに加え、糖質、ビタミンだけでなく、ミネラルも摂取できる酵素玄米を選択しました。

 味噌汁ではビタミンとミネラル、炭火焼チキンのネギソース(主菜1)ではタンパク質と脂質、ゴーヤチャンプル(主菜2)でたんぱく質、ビタミン、ミネラル。茄子の焼き浸し(副菜1)ではビタミンとミネラル、そしてキムチオクラ納豆(副菜2)でたんぱく質、脂質、ビタミンを補い合うことができます。これは一例ですが、このように5大栄養素を満遍なく摂れるようにしていました。

 一方、子供の頃というのは、脳機能や身体機能を高めるためにも食事が重要になります。「子供は生まれを選べない」と言いますが、何を食べるべきなのか、必要な食べ物を自分で選ぶこともできません。だからこそ、周りにいる人が守ってあげて、サポートし、正しい食事、栄養素を与えることが大事です。1度や2度の食事を意識しても、それほど大きな差が出ないかもしれません。それでも、食事は日々の営みです。それが積み重なれば、子どもの能力にも差が出てきます。しっかりと知識で武装して、大切な人たちに還元してほしいというのが私の願いです。

「ジュニアアスリート」に適した食事とは…年代別にポイントを解説

 2歳から6歳くらいの幼少期は、身体の発達が大きく見られる時期です。食事の栄養の良し悪しは、発育に大きな影響を与えます。ただし、1回に食べられる量は限られるので、1日の必要なエネルギーを食事だけで補うのは難しい時期になります。そうした時には、おやつや間食が重要になりますが、その時にお菓子のみを与えるのではなく、おにぎりやパン、乳製品、果物といったものを食べさせてください。

 小学校に行き始める学童期は、成長のスパートがかかる時期です。子供の頃に2回、爆発的に伸長が伸びると言われます。赤ちゃんの時期と、この時期で、私自身もこの頃は年に10センチは身長が伸びて、中学校卒業時には184センチありました。身長を伸ばすためにも、栄養、食事は重要になります。子供には成長するためのエネルギーが必要で、栄養不足の場合、身長が伸びなかったり、身体が弱くなったりすることもあります。

 人が生きるために、安静時であっても呼吸、血液循環、臓器の活動をしています。これに必要な最小エネルギーが基礎代謝です。学童期の子供は新陳代謝が活発です。1度の食事で多く食べられない子には、必要エネルギーを補うために間食や補食を摂るなどの働きかけが必要になってきます。

 運動をする子供たち、いわゆる「ジュニアアスリート」は運動に使用するためのエネルギーが増加します。しっかり1日のエネルギー必要量を確保しなければ、発育や発達に利用できるエネルギーが足りなくなることもあるのです。

 では、食事量が適量かどうかは、どのように把握すればいいでしょうか。目安となるのは体重です。体重が減ったら、食事量が少なかったり運動をやり過ぎていたりする可能性があります。体重が増えたら、食事量は充足できていると考えられるでしょう。こうした成長期に体重が増えることはいいのですが、増えたのが脂肪ということもあるので、食事内容も振り返ることも重要になります。

アスリートの試合3日前から前日にかけての食べ物について

バランスの取れた食事、注意点などをSNSで発信【写真:本人提供】
バランスの取れた食事、注意点などをSNSで発信【写真:本人提供】

 アスリートが最大のパフォーマンスを発揮するためには、試合に向けてエネルギーを蓄えることも重要になります。サッカーは試合が週に1回か2回のため、準備がしやすい競技です。私が現役時代からやっていたのは、「グリコーゲンローディング」というもの。これはエネルギー源であるグリコーゲンを蓄え、試合中の持久力低下を防ぐもので、試合前の筋グリコーゲンが多いほど、移動距離も長く、ジョギングやスプリントも多くなります。私の場合は、試合3日前から炭水化物の摂取量を増やしていきました。

 土曜日に試合がある日に向けた、3日前からの夕食メニューを例に挙げます。

 水曜日のメニューは、まぐろユッケ丼、ネギ塩鶏ハム、肉じゃが、高菜とほぐし鮭和え、キムチ納豆、沢庵、梅干し、大石プラム。

 木曜日は、酵素玄米、鰹のタタキ、豚しゃぶ、ネバネバ小鉢、無限キムチピーマン、紅葉おろし、五目ひじき、あおさのお吸い物、桃。

 ご飯だけで炭水化物を摂るのは難しいかもしれません。するする食べられるそうめんなど、麺類を食べてもいいでしょう。また、ここで紹介しているまぐろユッケ丼のように、どんぶりにするのも有効です。どんぶりは食べ過ぎるくらい、食べることもあります。また汁ものや副菜に、糖質の多いサツマイモやジャガイモ、カボチャを入れるのもいいでしょう。

 試合前日の金曜日は、白米、厚切り豚ロースのネギ塩タレ、肉じゃが、和風ポテトサラダ、オクラとシラスの納豆、しめじ・カブ・わかめのお吸い物、スプラウトサラダ、高菜と鮭の和え物、キムチ、大石プラム。炭水化物をメインにするとともに、胃に優しい消化しやすいものを食べるようにしましょう。

 夕食は基本的に17時半から18時に食べるようにして、寝るまでの時間を長くとり、消化された状態で寝るようにしています。こうすることで睡眠中に消化器官にエネルギーを使うこともなく、睡眠の質も高まります。

試合当日は4度に分けて食事、固形物は試合開始3時間前までに

 そして試合当日です。私の現役時代は、14時キックオフの試合の時には午前7時、11時、13時、13時半と4度に分けて食事をしていました。午前中の食事では糖質をメインに、おにぎり、うどん、餅入りうどんなどを取ります。試合開始3時間前の11時までに固形物は食べ終えるようにします。そして13時には、バナナやゼリー飲料といった吸収が早く、エネルギー源になるもので軽く済ませます。最後に試合開始30分前にスポーツドリンクで水分と塩分を補給します。このように小まめに摂取して、消化に負担をかけないように意識しましょう。

 試合当日、お弁当を持っていくという方もいるでしょう。そんな時は、白米ご飯、鶏、卵そぼろ、温野菜、鶏の照り焼きのお弁当をおすすめします。消化に負担がなく、それでいて食事が進みます。

 繰り返しになりますが、今回、紹介しているメニューは一例になります。このメニューを参考に、自分に合った食事のメニューや量などを見つけていってください。細かい作り方などは、私のインスタグラムでも紹介しているので、ぜひ、そちらもご覧ください。

[プロフィール]
小泉勇人/1995年9月14日生まれ、茨城県出身。現役時代のポジションはGK。鹿島アントラーズユースを経て、2014年よりトップチームへ昇格。水戸ホーリーホック、グルージャ盛岡、ザスパクサツ群馬と渡り歩き、19年夏にヴァンフォーレ甲府へ。選手としてプレーしつつ、コロナ禍で本格的に自炊をスタートすると、SNSを利用して自身の作った料理を発信。食に関する専門的な知識も身に着け、上級食育アドバイザー、野菜スペシャリスト、アスリートフードマイスターなど、数々の資格も取得した。23年2月に現役を引退し、「株式会社en’s life」を設立。[ftp_del]7月11日から17日にはおもて参道(ラフォーレ原宿)でアパレルブランドのポップアップの一部を社会貢献活動に活用、6月末には光文社よりレシピ本も出版が決定。[/ftp_del]「食を起点に多方面から人生を豊かに」という理念のもとに、さまざまな活動を幅広く行っている。[ftp_del]インスタグラムアカウント:@zumi_meshi、ツイッターアカウント:@yuto_koizumi40[/ftp_del]

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