「17歳で普通できますか」 久保建英の異質なメンタリティーを日本代表OB証言、舌を巻いたベテラン然とした思考

横浜FM時代の久保建英【写真:Getty Images】
横浜FM時代の久保建英【写真:Getty Images】

【専門家の目|栗原勇蔵】17歳にして礼儀正しく、海外で揉まれたメンタリティーを兼備

 スペインの名門FCバルセロナの下部組織で育った久保建英は、一体どんな内面の持ち主なのか。Jリーグやラ・リーガ、日本代表で実戦の場を踏んできただけあり、ファンにはお馴染みの存在になったものの、21歳の若き逸材の内面は「知る人ぞ知る」領域でもある。「FOOTBALL ZONE」では関係者や記者たちの証言から久保の人間性に焦点を当てた特集を展開。久保が2018年に横浜F・マリノスへ期限付き移籍した際にチームメイトだった元日本代表DF栗原勇蔵氏に印象を訊いた。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 バルセロナの下部組織で研鑽を積んだ久保は、2015年に日本へ帰国。FC東京の下部組織を経て、17年11月にFC東京のトップチームとプロ契約を結んだ。

 活躍が期待された2018年、J1リーグ開幕戦の浦和レッズ戦(1-1)で途中出場するなど、開幕3試合連続で出番があったが、守備や運動量の課題からその後は徐々にベンチ入りの機会は減少。同年8月、年末までの横浜FMへの期限付きが決まった。当時、34歳とベテランだった元日本代表DF栗原氏は、「小さい頃からバルセロナの下部組織にいて、FC東京でもプレーしていたので、話題性もあってどんな子なんだろうと思っていました」と振り返る。

「久保は当時17歳。あどけなさもあるなかで、海外に行ってほかの人が経験していないようなことにも向き合ってきた分、すごくしっかりしていて、礼儀正しい。挨拶をするのは当たり前と言えば当たり前ですけど、中にはできない選手もいるし、目を見て挨拶をしないという選手もいる。そこはしっかりしていて、日本人らしさを持ちつつ、海外で揉まれていただけあって、闘争心やメンタリティーを備えていました」

 17歳にして、ベテランのような物の考え方には、思わず舌を巻いたと栗原氏は明かす。

「自分が17歳の時にどんなだったかを振り返ったら、自分はやんちゃをしていて、久保のようには人間ができてなかった(苦笑)。それがもうトップのレベルにいて、中澤佑二さんらと絡んで一緒にプレーする。その時点で少し次元が違いますよね。僕は当時34歳。(17歳の久保とは)大人と子供というか、親と息子と言ってもおかしくないレベル。彼はまだ高校生の部類だったので、自分と歳が離れすぎていて、連れ回すのはやめておこうと思っていたので(笑)、接点は多くなかったかもしれません。山田康太(柏レイソル)らと仲が良かったと思います」

練習や試合では物怖じせずに「ガンガン要求」

 久保は2018年8月26日に行われたJ1リーグ第24節ヴィッセル神戸戦(2-0)で待望のJ1リーグ初ゴールをマーク。栗原氏は「F・マリノスに何かきっかけを掴みに移籍してきたと思います。そのなかでのゴールで、うしろで見ていてその試合は特に頼もしく見えたし、彼の活躍がなかったら試合にも勝てなかった」と語る。

 久保と言えば、自信に満ちた発言も多く、ビッグマウスと捉えられがちかもしれない。練習でも年齢関係なく周囲に要求してきたという。しかし、それはこれまでの経験に基づき、しっかりと頭の中で整理されたうえでのものだと栗原氏は感想を口にする。

「プレーに関しては、練習からガンガン要求してきます。とにかく、どうしたら自分が前を向いていいプレーができるか、その意識が強かった。うしろからボールを運んでいくうえで、どこに欲しいとか、要求していた印象です。でも、結果がすべての世界なので、年齢がどんなに下であろうが、そうじゃないといけない。それを17歳で普通できますか、と。それを冷静に考えると凄いなとなるし、それの繰り返しですね(笑)。発言だけをクローズアップされると、ビッグマウスと言われてしまうのかもしれませんけど、それはスペインという国で揉まれてきた証だと思うし、言うことは頭の中でしっかり整理できている。ピッチを離れれば素晴らしい好青年。可愛い性格をしてるいい子だと思います」

 では、キャラクターはどうか。栗原氏は、「自分の軸がしっかりしている反面、たぶん天然だと思います」と笑う。

「見ていて分かると思いますけど、イジられる愛されキャラでもあります。F・マリノスでも一番年下でイジられていましたね。まず経歴が異色。レアル・マドリードの中井卓大もそうですけど、小さい頃から海外でやっていて、厳しい目で見られているなかでも、それを全く感じさせない。年齢が下だろうが、必然と一目置かれますよね。さらに、人間性もいいので(久保のことが)嫌いという言葉はもちろん聞いたことがない。仲間とはいえ、ライバルでもあるので、競い合っていくうえで少なからずジェラシー(嫉妬)はみんなあると思います。でも、純粋に応援したいと思わせてくれる人間力が備わっている気がします」

 スペイン挑戦4年目、久保は今季すでに7ゴールを挙げ、ラ・リーガでの日本人最多記録を更新。栗原氏は今後のさらなる活躍に期待を寄せる。

「有言実行が一番難しい。自分でプレッシャーかけて追い込んで、結果を出していく。そういう意味では、本田圭佑もそうでしたけど、やっぱり凄い選手だと思います。今年はソシエダでかなり活躍してるし、いずれ日本代表の軸になって、今後10年はチームを引っ張っていく選手。必ずその地位に辿り着いてほしいし、プラスアルファでバルセロナやレアル・マドリードに戻って、そこでバリバリにプレーする姿を見てみたい。陰ながら応援しています」

(FOOTBALL ZONE編集部)



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栗原勇蔵

くりはら・ゆうぞう/1983年生まれ、神奈川県出身。横浜F・マリノスの下部組織で育ち、2002年にトップ昇格。元日本代表DF松田直樹、同DF中澤佑二の下でセンターバックとしての能力を磨くと、プロ5年目の06年から出場機会を増やし最終ラインに欠かせない選手へと成長した。日本代表としても活躍し、20試合3得点を記録。横浜FM一筋で18シーズンを過ごし、19年限りで現役を引退した。現在は横浜FMの「クラブシップ・キャプテン」として活動している。

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