「カタールW杯は落選だとは思っていない」 西村拓真が感じた“力不足”と生き残りへの突破口
【インタビュー】国内組と海外組では「フィジカルのレベルの差がある」
第2次森保ジャパンの船出となった3月シリーズ。南米の強豪であるウルグアイ代表とコロンビア代表を迎えての連戦で、大きなアピールに成功した1人が、横浜F・マリノスのFW西村拓真だっただろう。勢いに乗る26歳のアタッカーを直撃した。(取材・文=河合 拓)
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2022年シーズン、西村は横浜F・マリノスのトップ下として活躍し、リーグ優勝に貢献。7月にはE-1サッカー選手権の初戦となった香港戦で日本代表デビューを果たし、カタール・ワールドカップ(W杯)のメンバー入りの期待も懸かっていた。残念ながら森保一監督が選んだ26名のリスト入りは叶わなかったが、西村自身は「落選だと思っていない」と当時のことを語る。
「その土俵にも立っていないと思っていました。世間的には『落選』と言われるんですが、僕は全くそう捉えていないんです。自分の実力を過大評価はしていないので、今の実力としては、行っても厳しいものがあったと思います」
カタールW杯では、中盤から前の選手たちは、ほとんどが海外に身を置くいわゆる「海外組」の選手たちだった。過去にはロシア1部CSKAモスクワ、ポルトガル1部ポルティモネンセにも所属した西村は、「彼らは海外で活躍していて、僕は日本で活躍しているので、その時点で大きな差があると思う。彼らは海外の選手と高いレベルで常にやっていますが、僕は対日本人、少ない数の外国籍選手がいるリーグでやっているので、圧倒的フィジカルの違う場でプレーしている。そこには大きな差があると思います。海外と日本はフィジカルのレベルも、サッカーのスタイル、テンポも違います」と、差を感じ取っている。それでも海外を一度経験し、向こうの基準を知っていることは、経験として大きな財産になるはずだ。
カタールW杯が終わり、第2次森保ジャパンの船出の連戦ではピッチに立って結果も残した。3月24日のウルグアイ戦で途中出場するとファーストタッチでゴールを奪い、続く同28日のコロンビア戦ではスタメンに抜擢され、Jリーグでも示している驚異的な運動量は、国際Aマッチでも目を引いた。
高校までは「守備も全くできなかった」
この試合、ゴール裏から解説をしていた元日本代表DF槙野智章氏は、前半の終盤になっても運動量が落ちない西村について、「こんなに走っているのに肩で息をしていない。どこまで走れるんだろう」と驚愕していた。その運動量や気迫は、高い位置からプレスをかける森保ジャパンの戦い方とも相性はいいはずだ。
その個性については、西村はプロになってから磨かれたものであり、特長と評されるまでになったことには不思議な感覚があるという。
「原点と言えるかは、よく分からないのですが、プロに入って自分ができることを探していった先に、こういう形になっていたのだと思います。高校までは特別に試合で走れるわけでもなかったし、守備も全くできなかった。むしろ『守備しろ!』と怒られていたくらいでした。本当にプロに入ってからですね。
プロサッカーって上手い選手の集まりですし、そのなかで自分には特別に技術として秀でているものもなかった。プロ1年目の時から、技術でほかの選手たちと競うのは難しいと感じて、とにかく1回1回の練習で自分にできることをやり続けました。プラス、マリノスでプレーしているから、それ(走りや気迫)が自分の強みになってきたのだと思います。そういうところを今評価されているのは、自分ではあんまりよく分かっていないのですが、こうして振り返るとプロに入ってからやらないといけないと思ってきたことが生きているなと思います」
海外組とも過ごした3月シリーズについては、「自分自身の今後の成長につながる期間になった」と総括する。
「ウルグアイ、コロンビアという相手に対して、海外組もいるなかでどう戦うかが未知数な部分もありましたが、そういうところの発見もありました」
この2試合で日本代表は、サイドバックが中に絞ってビルドアップにも関わる形にトライした。プレミアリーグでも圧倒的な個の力を見せているイングランド1部ブライトンのMF三笘薫、フランス1部スタッド・ランスのMF伊東純也といったサイドアタッカーの力を生かす狙いかと思われた。
だが、実際にプレーしていた西村は「そんなに(特定の個を生かそうとは)感じなかったですね。新しいことにチャレンジしようという感覚でした」と、チーム内では特定の個を意識していなかったと話す。活動機会の少ない代表で、しっかりとやろうとすることを確認することができた場にいられたことは、今後も大きなメリットになるだろう。
自分のスタイルを構築していく重要性を再認識
また、チーム戦術だけではなく、1人のサッカー選手としても、「全選手から刺激を受けました」と言い、「十人十色というか、みんな個性を持っていて、考えとか取り組み方が違う。食事面などの私生活やサッカーの技術面まで発見はいろいろありましたが、やっぱり自分を持つことが大事だなと思いました。より自分で考えて、いろんな可能性を広げながら、自分を作り上げていかないといけないなと思っています」と、改めて自分のスタイルを構築していく重要性を感じたと語った。
今後の代表活動でも、海外でプレーする選手たちとのポジション争いは続いていく。3年半後の北中米W杯までには、同じ土俵で勝負できる選手になっていなければいけない。
「さっきも言ったように、日本代表は1人1人が個性を持っている選手の集まりです。そこから誰を使うかは監督のチョイスですし、いろんなところで“当たり前”のレベルを上げていけば、選ばれる可能性も高まってくると思う。自分の武器、プラス当たり前のレベルを上げることが大事だと思います」
再び森保ジャパンに招集された時にどれだけ良いプレーを見せられるかは、どれだけJリーグの舞台で、横浜FMで高いパフォーマンスを見せていけるかに直結しているはずだ。
[プロフィール]
西村拓真(にしむら・たくま)/1996年10月22日生まれ、愛知県出身。2015年に富山第一高校からベガルタ仙台へ入団。4シーズン在籍後、CSKAモスクワ(ロシア)、ポルティモネンセ(ポルトガル)、仙台復帰を経て、2022から横浜FMへ加入した。豊富な運動量と決定力の高さを武器に、攻撃の主軸として活躍を続ける。
(河合 拓 / Taku Kawai)