PSGの攻撃が「希有」で「楽しい」 メッシ&ネイマールが繰り出すアタックから見える「WMシステム」復活劇

PSGで共闘するメッシとネイマール【写真:ロイター】
PSGで共闘するメッシとネイマール【写真:ロイター】

【識者コラム】現代サッカーで消滅したインナーをリバイバルさせるPSGに注目

 サッカーのフォーメーションの1つ「WMシステム」の時代を知る記者から「今のサッカーはずっと速くなっているが、昔のほうがより素晴らしかった」という話をかつて聞いたことがある。

 1950年代あたりまで、インサイドフォワードというポジションがあった。インナーと呼ばれていて、背番号で言えば右のインナーが8番、左が10番。WMシステムのインナーは今風に言うとインサイドハーフだが、現在の4-3-3のインサイドハーフとはやはり少し違っていた。インナーはあくまでもFWであり、より攻撃的な選手がプレーしていたイメージである。代表的な選手としてはペレやフェレンツ・プスカシュが挙げられる。

 システムの変化でインナー自体は消滅してしまったけれども、インナー的な選手はどの時代にも存在してきた。ヨハン・クライフ、ジーコ、ディエゴ・マラドーナ、ミッシェル・プラティニ、リバウド、ジネディーヌ・ジダンといったいわゆる10番タイプがそうだ。プレーメーカーでありストライカーでもある攻撃の切り札。ただ、WM時代のように左右にインナーを並べることはなくなっていた。

 インナーが消滅して久しいわけだが、パリ・サンジェルマン(PSG)はインナーを現代に復活させた稀有なチームとなっている。

 リーグ・アン第18節のアンジェ戦は、リオネル・メッシのワールドカップ後初試合だった。右にメッシ、左にネイマールという左右のインナーが揃っていた。システムは3-4-2-1なのでインナーというより2シャドーなのだが、敵陣に攻め込んだ時はウイングバックが高い位置へ進出するので、メッシとネイマールはかつてのインナーとして機能している。PSGはもっぱら攻めているので実質的なシステムはWMと言っていい。ちなみにマンチェスター・シティもWM的なシステムを時々使っているので、リバイバルしているのかもしれない。

 メッシとネイマールが右左のハーフスペースを分担する攻撃は彼らを見ているだけで楽しくなる。技術的に世界最高の2人。ドリブルあり、パスワークあり、技巧とインスピレーションが満載。そして無用に急ぎすぎない。

 現代サッカーの大半は、どれだけ速いパスを回して攻めるかが問われているが、そのやり方だとパスワークの終点は大体サイドであり、そこから力任せにクロスボールを入れるか、インナーラップでえぐるかという形に終始しがちだ。速すぎるのでインスピレーションを発揮するのも難しい。その点、メッシとネイマールは相手DFを手玉に取って動かし、穴を作って突いていくスペシャリストであり、筋肉に頼らない崩しができる。

 PSGに職人的ウインガーはいないが、史上最高クラスのインナー2人がいて、キリアン・ムバッペまでいるから攻撃の魅力は最高だが課題は守備だ。悲願のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)制覇のためには守備がカギになるだろう。3-4-2-1の形での守備はともかく、さらに引いた時の守備が問題。メッシとネイマールはほぼFWなので戻ってこない。引き切った時は5-4-1になるはずが、5-2のブロックにしかならないのだ。さすがにこれで持ちこたえるのは難しく、アンジェ戦では2-0で勝利はしたが後半は攻め込まれて失点寸前のシーンも何回かあった。

 最高級の攻撃とそうでもない守備。素晴らしいけれども現代的とは言えないPSGの今季はどんな結末を迎えるのだろうか。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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