両膝の手術を乗り越えて 佐野日大FW中埜信吾が「夢」だった選手権で決勝弾を挙げるまでの軌跡
選手権2回戦の奈良育英戦で後半アディショナルタイムに値千金の働き
2022年12月31日、第101回全国高校サッカー選手権の2回戦・奈良育英(奈良)戦で後半アディショナルタイムに決勝点を決めた佐野日大(栃木)のFW中埜信吾は、選手権に出ることが夢だったという。
「全国大会に出るのが夢だったし、決めるってのは正直思ってもなかったんですけど、そこで決めきれたので、良かったです」
その中埜は、両膝の半月板の手術を乗り越えて選手権の舞台にたどり着いた選手だ2021年6月ごろに膝に痛みが出始め、「サッカーを微妙にできる感じの痛みで。復帰したりしなかったり」の状態が続いていたという。
「痛くなったのは去年の6月ごろなんですが、全然なんか、半月板というのがあまり分からなくて」、騙し騙しプレーしながらも、やはりおかしいと診察してもらったところ「(2021年)12月にやっと分かって。12月から手術したので、約1年間の怪我になりました」と話す。
全国高校総体(インターハイ)が復帰試合だったが、そこであまり結果を残せなかった。原因は筋トレと分析。「8月とか、それまで筋トレとかをしてて、身体が結構重くなっちゃって動かなった」のだと話す中埜は、だからあえて「8月とか頑張って、夏場走って、それがだんだん、いいプレーにつながって」きたのだという。
復帰後にこだわったのは、身体を生かしたプレースタイルを磨くことだ。
「ジャンプ力だったりとか、ヘディングだったりとか。自分がキープして仲間が追い越すのを待つまでキープするとか、そういうのを特にこだわっていました」
だからこそ、後半開始直後の3分、MF吉岡汰斗のフリーキック(FK)を頭で合わせた場面などは確実に決めなければならないシュートだった。
「FK、最初の吉岡からのボール、すごいビックチャンスだったので。ちょっと決めきれなかった時は今日大丈夫かなぐらい思ったんですけど」
決定機を外して落ち込む中埜だったが「絶対2〜3回はチャンス、いつも来てたので。次、決めようって切り替えて」試合と向き合い、結果的に決勝点をマークした。
「あそこで(決勝点を)決め切れたので良かったです」と笑顔を見せた。
ちなみにゴールは、FWヒアゴン・フランシス琉生のシュートに反応したもの。中埜曰く、枠から逸れていたというシュートを少し逸らしたことで、ゴールネットを揺らすこととなった。
「ヒアゴン選手のシュートがたまたま自分のところに来たので。少し逸らしました」
手術から回復し、チームを勝利に導いた中埜ではあるが、6年前の母校のベスト4の実績はとりあえず除外して、目の前の1試合に集中したいと堅実だった。
「ベスト4を超えるというより、自分たちの試合に1試合1試合集中して。1試合1試合が決勝戦のような雰囲気で、1試合ずつ勝ち進めればと」
PK戦目前の中埜の決勝点で勝ち上がった佐野日大は、3回戦で履正社と対戦する。
(江藤高志 / Takashi Eto)
江藤高志
えとう・たかし/大分県出身。サッカーライター特異地の中津市に生まれ育つ。1999年のコパ・アメリカ、パラグアイ大会観戦を機にサッカーライターに転身。当時、大分トリニータを率いていた石崎信弘氏の新天地である川崎フロンターレの取材を2001年のシーズン途中から開始した。その後、04年にJ’s GOALの川崎担当記者に就任。15年からはフロンターレ専門Webマガジンの『川崎フットボールアディクト』を開設し、編集長として運営を続けている。