J1リーグ優勝戦線の明暗 横浜FMと川崎の鮮明な差、“2000分以上”のプレー人数が命運の分かれ目に?
【識者コラム】トップ争いを演じる横浜FMと川崎、両者のチーム状況にフォーカス
横浜F・マリノスが今季のJ1リーグ優勝をほぼ確実にした。現実的には川崎フロンターレとのマッチレースを制した形だが、第31節(両チームともに30戦目)はまさに両者の明暗を象徴するようなゲームとなった。
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アウェーの名古屋グランパス戦に臨んだ横浜FMは、終始ゲームを支配し後半開始早々にはFW水沼宏太が2点目を決める。そこでケヴィン・マスカット監督は、後半16分に2枚、同29分にも2枚の交代カードを切り、さらに同41分には再三のハットトリックのチャンスをGKランゲラックに阻まれた水沼を下げて、MF藤田譲瑠チマを送り込み最大5人の交代枠を使い切った。
ちなみに2度目の交代は、俊足から何度もチャンスに絡んでいたFWエウベルに代えて3年前に優勝した時にMVPを獲得したFW仲川輝人、もう1枚は、FWアンデルソン・ロペスを下げて、目下チームで唯一の2桁得点を挙げているFWレオ・セアラと贅沢なものだ。
交代出場したレオ・セアラは最初の決定機を外した瞬間に、これ以上ないほどの苦渋の表情を作った。しかしその後は、同じく交代出場の仲川のアシストを受けて3点目を奪取。終了間際には、やはり交代出場の藤田がダメ押しの4点目を決めて歓喜を爆発させた。
逆に故障者続出に泣いた川崎は、アウェーの北海道コンサドーレ札幌戦でもアクシデントに見舞われた。前半に先制し、1度は逆転に成功するのだが、終盤には決定機をファウルで阻止したMF橘田健人が退場。同時に相手と交錯した守護神チョン・ソンリョンのプレー続行が難しいほどの負傷をして、再度逆転を許してしまった。
昨年夏に、前任のアンジェ・ポステコグルー監督から指揮権を引き継いだマスカット監督は、着々とチーム全体にコンセプトを浸透させた。こうして誰が出ても「自分たちのスタイルでプレーできる」選手たちを育て上げ、一定の水準に到達した選手たちに全幅の信頼を置きピッチに送り出した。
横浜FMのプレースタイルを最も具現する存在のGK高丘陽平だけは開幕から全試合フル出場を続けたが、そのほかに第30節までで2000分以上プレーしているのはユーティリティー性の高いDF岩田智輝だけだ。どんなに好調な選手でもプレー時間をシェアして、シーズンを通して過度な疲労を溜め込まないように気を配って来た。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。