“天才児”ゲッツェ、フランクフルトで復活劇なるか 病気&負傷で苦難を経験、「楽しむ感覚を取り戻した」アタッカーに漂う期待感

プレッシャーから解放され、楽しむ感覚を取り戻したオランダ移籍が転機に

 転機となったのはオランダリーグのPSVへ移籍したことだろう。ドイツを離れたことで、メディアからの尋常ならぬプレッシャーから解放されたゲッツェは、ドイツ人指揮官ロジャー・シュミット(当時)の下、サッカーに集中できる環境で、サッカーを楽しむ感覚を取り戻していった。

 そんなゲッツェはフランクフルトが熱望していたピースだった。UEFAヨーロッパリーグで優勝したとはいえ、リーグでは11位止まり。特にペナルティーエリア付近で守備を固める相手を打ち破る術が十分ではなく、不用意なミスからカウンターを受けては失点を繰り返す悪癖を解消できないでいた。

 日本代表MF鎌田大地が奮闘するも、変化をつけられるのが鎌田一枚なら、相手はそこさえ押さえればなんとかなる。爆発的な突破力を誇るフィリップ・コスティッチが左サイドにいるが、そこへのパスが予想できたら、相手はそこに最初から2枚の選手をおいて対応できる。

 入団会見でその点を聞かれたゲッツェは落ち着いた様子で次のように答えていた。

「監督がどういうプレーをするかを決める。僕の強みは最後のところで守備を固める相手に対してスペースを崩すこと。チームのために、僕のプレーで貢献したい。自分のパフォーマンスを可能な限り引き出したい」

 以前はメディアからの質問に神経質になったり、気持ちを乱されたりしていたこともあったが、ゲッツェももう30歳。さまざまな経験を積み、ハードルを乗り越えて、成熟した1人の男がそこにいた。

「メディアで言われるあれこれとは違うテーマを持って取り組んでいる。大事なのはプレーを楽しむこと。そしてピッチで、自分のパフォーマンスを出すこと。満員のスタジアムでプレーできることが楽しいし、トレーニングをして、プレーをして、ゲームに出てという毎日が素晴らしい。ここ数年間のことは僕にとっては過去のことだ。前を見ている。自分の、自分たちの課題に取り組んでいく」

 獲得を熱望した選手だけに、グラスナー監督はゲッツェの能力を最大限に信頼している。

「『私におかしなことを言わせないでくれ。君のほうが僕よりもずっとスペースを見つけ出すことができる。君のクリエイティブさをもたらしてくれ』って言ったよ」

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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