川辺駿、Jリーグ→欧州初挑戦の訳 「想像以上」だったスイスで実感…日本と「違いすぎる」点とは?

環境が整っているスイス「ここから上にいくという意味では、いい場所」

 同じくグラスホッパーでプレーするDF瀬古歩夢も同じような思いを持ってスイスへ渡った。オファーを受けて悩むこともなかったそうだ。

「即答でしたね。一番仲のいい鈴木冬一がスイスでやっていたのもあった。セレッソ大阪でやってきて、自分の中で環境変えなきゃいけない時期と分かっていた。すぐ『行きます!』と」

 コンフォートな環境から抜け出して自分と向き合うこと。さらなるレベルアップを願うなら、どこかで新しく厳しい環境に飛び込んでいくことが必要になる。

「日本も素晴らしいですけど、言葉も通じないところに飛び込んでいかなきゃいけないなって。日本でずっとプレーしていたらいけないなって。こっちにきて大事な部分でマンツーマンなので、やりがいを感じている。それを求めてこっちにきたので」(瀬古)

 欧州では守備においてマンツーマンでの対応が非常に重要にされる。もちろんチームとしてゾーンやボール・オリエンテッドな守備戦術はあるが、終始カバーがある状況なわけではない。そこで止められない、運べない選手は活躍の場を失っていく。自分のところでマークを外されたらピンチの責任はすべて自分という環境がそこにはある。

「おっしゃるとおりで、今のサッカーはフィジカル、スピードが主流になってきている。日本とまた違ったサッカーを自分の頭に入れ込めば、これから先、何があっても対応できるようになると思う」(瀬古)

 トップリーグではないから意味がない、ということではない。レベルも決して低いわけではない。川辺はスイスリーグに好感を持っている。

「結構いいんじゃないですか。もっと注目されていいと思います。みんなが知ってるようなバーゼルとかヤングボーイズとかはもちろんCL(UEFAチャンピオンズリーグ)やEL(ヨーロッパリーグ)に出てます。だから日本人がもっと来られるように、自分が活躍して、毎シーズン誰かがスイスでプレーするようになってほしいと思います。4大、5大リーグの注目度やレベルの高さではないかもしれないですけど、若い選手も多くて、ここだったらブンデスリーガが近いので、そこへステップアップしたり、フランスやイタリアも近い。ここから上にいくという意味では、いい場所だなと思っています」

 また、初めての海外挑戦となるとサッカー以外にも普段の生活からもカルチャーショックを受けることが少なくないが、ことスイスに関しては馴染みやすさもある。練習環境などは相当整っており、治安も悪くない。

「きれいなんだろうなぁってイメージだったんですけど、でも想像以上にきれいなのと、あと安全というか、怖さは全然ないですね。道路とかもきれいだし。夜でも1人で普通に歩ける。不自由は全然ないですね」(川辺)

 サッカーに集中して取り組める環境があり、そこから先へのステップアップも自分次第で拓けてくる。そんな移籍先の選び方もどんどん考えられるようになったら、素敵なのではないだろうか。

※第3回へ続く

[プロフィール]
川辺駿(かわべ・はやお)/1995年9月8日生まれ、広島県出身。広島高陽FC―サンフレッチェ広島Jrユース―サンフレッチェ広島ユース―サンフレッチェ広島―ジュビロ磐田――サンフレッチェ広島―グラスホッパー(スイス)。2014年に広島のトップチームに昇格。15年に磐田へ期限付き移籍して頭角を現すと、18年から広島へ復帰して主力としてフル稼働し、21年7月からグラスホッパーへ移籍。22年1月、ウォルバーハンプトンへ3年半契約で加入が決まり、同シーズンは期限付き移籍の形でグラスホッパーで引き続きプレーした。21年3月25日の韓国戦でA代表デビューを飾り、同年6月7日のタジキスタン戦で代表初ゴールをマークしている。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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