日本代表初選出の伊藤洋輝、充実の1年で遂げた驚くべき成長 最終節の“劇的残留弾”呼び込んだアシストの“凄み”

フランクフルト戦ではミスからチームがピンチに陥るも…浮き彫りとなった切り替えの良さ

 その時必要なプレーを普通にやるというのは、一見当たり前のことのように思われるが、相当に難しいことだ。それこそ筆者が初めて伊藤のプレーをスタジアムで見たのは第4節フランクフルト戦だった。後半25分に左ウイングバックのボワナ・ソサと交代で出場。後半37分、伊藤は後方のセンターバックを務めるウラジミール・アントンにスローイングでボールを渡そうと思ったが、逆方向をついてしまい、ボールロスト。アントンは相手をファウルで止めてしまい、まさかの一発レッドとなった。ブンデスリーガ出場2試合目のルーキーは自身が絡んだミスでチームをピンチにさらしてしまったとなったら、動揺してミスを連発しても不思議ではない。だが伊藤はそうした状況でも“普通”に攻撃に絡み、“普通”に激しく守備をしていたのが何より印象的だったのだ。

 ケルン戦後に行われたリモート記者会見で、ペジェグリーニ・マテラッツォ監督に「ノーネームから驚くほどの成長を遂げました。彼の今季のパフォーマンスをどのように評価されますか?」という質問をした。

「ヒロキがここまですぐに順応したというのはみんなにとってポジティブな驚きだった。新しい文化、新しいリーグにもかかわらず、自身のパフォーマンスを発揮してくれている。そして性格面も素晴らしい。負傷の影響で2日間、トレーニングができなかったのだが、でも今日これだけのパフォーマンスを見せてくれたことが彼のすばらしさを表していると思うよ」

 シーズン終了から数日後には完全移籍が発表された。クラブからの評価も信頼も高い。日本代表にも初めて招集された。ここからさらにどんな成長を見せてくれるのか。無限の可能性を秘めた若きDFが日本代表の秘密兵器となってももはや不思議ではない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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