フランクフルト、悲願のEL優勝の舞台裏 高原直泰の激励、出血、涙…「1人のヒーローなんていない。僕らみんながヒーローだ」

出血をしながらも試合に出場したMFセバスティアン・ローデ【写真:ロイター】
出血をしながらも試合に出場したMFセバスティアン・ローデ【写真:ロイター】

バイエルンMF、高原直泰らから激励 試合開始直後に出血のアクシデント

 フランクフルトファンだけではない。数多くの著名人がフランクフルト優勝を願い、試合前には熱いメッセージを送っている。

 バイエルン・ミュンヘンのドイツ代表MFヨシュア・キミッヒは「ヨーロッパリーグでの戦いぶりは素晴らしい。ドイツのみんなをファンにしてくれた。ギガンティックだ。トロフィーをドイツに持ち帰る時が来た。僕も、ドイツのみんなも応援しているよ!」とエールを、フライブルク監督クリスティアン・シュトライヒは「たくさんの幸運と熱い戦いを願っているよ。これ以上なく熱い戦いになるだろう」と激励を送った。

 バイエルンやドルトムントでUEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝を果たした名将オットマー・ヒッツフェルトが続く。

「今日はみんなの日になると思っている。自分達を信じて戦ったら、成し遂げることができると確信しているよ」

 そしてフランクフルトOBでもある元日本代表FW高原直泰は日本からドイツ語でメッセージを送った。

「日本から成功を祈っているよ。頑張れ、フランクフルト。カモン、みんな!」

 さまざまな人の思いが託された。フランクフルトの選手は初の大舞台に緊張を感じさせながらも、懸命に走り、戦い続けた。試合開始直後にはキャプテンのMFセバスティアン・ローデが交錯シーンで相手選手に額を蹴られ、出血するアクシデント。ピッチ上で傷口が縫われ、青色のターバンが巻かれたローデはすぐに立ち上がり、ピッチへと駆け出した。動揺はない。

「すぐに14年のシュバイニィを思い出したよ。だからあれはいいサインだった」

 ローデは試合後に明かしている。2014年ワールドカップ決勝のアルゼンチン戦でドイツ代表MFバスティアン・シュバインシュタイガーは空中戦で目の下に裂傷を負いながら、闘争心をさらに燃やし、血を流しながら何度も体を張った守備と攻撃でチームを牽引し、リオデジャネイロでの戴冠に大貢献した。この日のローデはまさにそんなシュバイニィを彷彿とさせるプレーを見せた。ピッチを走り回り、あらゆるところに顔を出し、全力でチームを牽引していく。

 試合終了間際に万事休すと思われるシーンもあった。センタリングが長谷部の足をかすめてファーポスト際に流れてくる。レンジャーズFWケントがフリーでシュート体勢に。でもフランクフルトにはこの男がいた。GKトラップだ。素早くボールに向かうとバランスを崩しもせずに相手と正対し、素早い動作で至近距離からの難しいシュートを足でブロックしてみせた。PK戦でもレンジャーズの3人目を見事にセーブ。

「僕らみんながヒーローだ。0-1とリードを許したけど、僕らは追い付けるって分かっていたんだ。1人のヒーローなんていない。僕らみんながヒーローなんだ」(トラップ)

中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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