1人のみの”孤独ポジション”ゆえの友情 ボーフムGK陣が白熱のPK戦で見せた固い絆

殊勲のリーマンは先発出場していたエッサーに敬意

 ライス監督は事前から準備していたアイデアではなかったことを試合後に明かしている。リーマンも「全く知らなかった。あらかじめ話されていたことではなかったんだ。103分(延長前半13分)の段階で、アップするのにどれくらい時間が必要かと聞かれたから、5~10分くらいあればと答えたんだ。あとは控室に戻ってスマホで相手のPKシーンをいくつかチェックしてすぐ試合に入った」と、舞台裏の様子について試合後に答えていた。

 出場3分とPK戦でヒーローとなったリーマン。試合後ファンの待つゴール裏でマイクを握り、選手とともに喜びの歌を歌い、踊った。そして勝利のセレモニーを終えた後、リーマンはもう一度マイクを握り、ファンへアピールをしていた。なんだろう。次の瞬間、ファンから拍手と大きな声援が聞こえてきた。

「ミヒャエル・エッサー!」

 何度も何度もスタジアムに響き渡った。リーマンはこの試合の本当のヒーローは自分ではなく、終盤までチームを救い続けたエッサーこそがそうだと伝えたかったのだ。

「マヌ(リーマン)の(PKストップ)の確率はもちろん僕も知っている。最終的に僕らが残留を果たすことができるのなら、僕がプレーしようがしまいが本当にどっちでもいいんだ。今日はプレーすることができて、自分のプレーに満足しているよ。最後に勝つことができたからなおさら素敵だよね」

 エッサーはそう言って笑った。

 GKにはフィールドプレーヤーには分からない固い絆がある。正GK、サブGK、第3GKという立場はどのチームにだってある。そう簡単にスタメンを代えられるポジションでもない。試合に出られないことに納得している選手だっていない。喧々諤々(けんけんごうごう)の間柄になってもなんの不思議もない。それでも、彼らは常に一緒に切磋琢磨している仲間なのだ。

 GKコーチのペーター・グライバーはそんな2人について次のように語っていたのが印象的だった。

「彼らは互いにリスペクトを持って毎日のトレーニングに取り組んでいる。マヌはテレビインタビューを終えて控室に戻った時に、まず最初にブルーノに『今日の君のパフォーマンスに脱帽するよ』と伝えたんだ。どれだけ彼らがリスペクトを持って支え合っているかが分かるシーンだった。それがあるからGKのトレーニングはいつもとても高いレベルで行うことができるんだよ」

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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