「レッズの選手で良かった」 浦和で失意の1年、元Jリーガーが引退後に咲かせた大輪の花

ローズガーデンを彩る“レッズローズ”。東海林さんの熱意が実って植樹されたものだ【写真:河野 正】
ローズガーデンを彩る“レッズローズ”。東海林さんの熱意が実って植樹されたものだ【写真:河野 正】

【元プロサッカー選手の転身録】東海林彬(元浦和)前編:高卒で加入もサテライトで痛感したプロの壁

 世界屈指の人気スポーツであるサッカーでプロまでたどり着く人間はほんのひと握り。その弱肉強食の世界で誰もが羨む成功を手にする者もいれば、早々とスパイクを脱ぐ者もいる。サッカーに人生をかけ、懸命に戦い続けた彼らは引退後に何を思うのか。「Football ZONE web」では元プロサッカー選手たちに焦点を当て、その第2の人生を追った。
 
 今回の「転身録」は2002年に浦和レッズに在籍した東海林彬(37歳)だ。高卒で加入した浦和ではサテライトでの日々を過ごすも思うように活躍できず、わずか1年で契約満了。現役引退後は東武動物公園で勤務し、現在は庭園管理士として花に携わり、巨大な「レッズ花壇」を手掛けて話題を呼んだ。前編では「楽しいと感じたことは一度もなかった」という浦和での1年間と、それを支えた元日本代表選手たちとの交流を振り返る。(取材・文=河野正)

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「庄和高校にトウカイリンという、左利きの俊足アタッカーがいて、ウチも声をかけている。将来性のある有望選手ですよ」

 2001年初夏、浦和レッズのスカウト担当チーフだった落合弘さんから、こんなネタを仕入れたが、私はトウカイリンなる選手の存在を知らなかった。その頃、埼玉の高校サッカー事情にかけては人後に落ちないと自負していたのだが……。

 そこで8月26日、第80回全国高校サッカー選手権埼玉大会の1次予選N組1回戦に出掛けた。FW東海林彬は故障明け2戦目ながら、評判通りのスピードとパスセンスの高さを披露し、まだ高校サッカー界の主流でなかったロングスローでも好機を演出。試合は東海林が3アシストする活躍で、狭山ヶ丘を5-1と圧倒した。

 浦和のほかにも6つの大学から誘われていたが、当時は進路について熟慮中と説明。とにもかくにも02年に浦和の一員となったのだが、後日談として聞いた本音はこうだ。

「実はJリーグや大学進学という選択肢は全くなく、就職するつもりでいたのですが、何をやりたいのか具体的な目標はありませんでした。そんななか、落合さんが誠実に熱心に声をかけてくださったこともあり、もう一度サッカーで自分を試してみようと思い直したのです」

 02年というと、前年のユニバーシアード北京大会を制した全日本大学選抜のレギュラー5人のほか、高校生も5人加入。東海林をはじめ埼玉・西武台高のDF南祐三、静岡・藤枝東高のMF長谷部誠、ユースから昇格したFW小林陽介、長崎・国見高のGK徳重健太という顔触れだ。

 参考までに埼玉の高体連から直接浦和に加入した選手は、東海林と南を最後にもう19年もいない。

河野 正

1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。

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