エリクセンの心停止がサッカー界に問うもの 加速する「拝金主義」と選手の肉体的限界

リバプールのクロップ監督が訴えていた過密日程

 そもそも、サッカーの試合で選手が命を落とすことなど許されない。そんな場面は、誰だって見たくないに決まっている。しかしその一方で、選手にはもっと素晴らしいパフォーマンスをしてほしい、もっとすごい試合が観たいという一般の要求はとてつもなく大きい。

 リバプールサポーターである地元の友人グラハムは、つい最近、冗談まじりにこうぼやいた。

「もっとピッチをでかくするか、さもなければ60年代のように選手は1日40本タバコを吸うべきだ。ともかく今の選手はアスリートとしても完璧で、スペースがどこにもない。あれじゃ、これからもゴールが減るばかりだ」

 しかし、あの広大なサッカーピッチをフィールドプレーヤーわずか20人で、常にスペースがないように見せる選手の運動量は尋常ではない。

 今季、怪我人が続出したこともあったが、リバプールのユルゲン・クロップ監督はシーズン中にたびたび、土曜日の12時キックオフの試合開始に抗議の声を上げた。新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れながらも、閉幕は通常通りの5月。さらに、無観客でテレビ中継の需要が増して、ミッドウィークにUEFAチャンピオンズリーグ(CL)を戦う人気クラブが土曜日の正午にプレミアリーグを戦うケースが増えたのである。

 ところがタフネスを売り物にするイングランドサッカーは、ドイツ人闘将の主張を“泣き言”と見なした。今季限りで解任されたが、シェフィールド・ユナイテッドのクリス・ワイルダー監督は、このクロップ監督の抗議も「ビッグクラブが自分たちの日程を優位にしたいがための主張だ」と語り、一蹴した。

 しかし、この抗議も、激しいプレミアのなかでもさらに激しいカウンタープレス戦法を駆使するクロップ監督ならではの不安から生じたものではないだろうか。

 クロップ監督が選手に高いフィジカル――つまり走っても走ってもへばらない体力を求めるのは有名だが、同時にそんなゲルマン魂の典型とも言うべき精神でドイツ人闘将が鍛え上げた選手でも、然るべき休養が与えられなければパンクしてしまうのは明白だ。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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