エリクセンの心停止がサッカー界に問うもの 加速する「拝金主義」と選手の肉体的限界

宮市のチームメートだったボルトンMFファブリス・ムアンバ【写真:Getty Images】
宮市のチームメートだったボルトンMFファブリス・ムアンバ【写真:Getty Images】

フォエの悲劇から9年後、筆者はムアンバの奇跡的な蘇生を現地で観た

 こうして、デンマークの首都コペンハーゲンで行われた母国代表のEURO初戦のお祭り騒ぎが、突如として戦場の最前線のような凄惨な雰囲気に包まれてしまったのだ。

 その後の詳細はすでに様々なメディアで日本にも伝わっていると思うので、ここでは割愛する。幸いなことにエリクセンは一命を取り止め、倒れて3日後となる15日付のメディアには病院のベッドでサムアップするデンマーク代表MFの写真が一斉に世界中に流れた。

 しかし今、筆者の頭の中には大きな疑問が渦巻いている。それはあの戦慄の瞬間から数日が過ぎた現在に至っても、エリクセンには心停止に至った心臓の欠陥が見つかっていないということに起因する。デンマーク代表エースが、ピッチに沈み込むように倒れた明確な原因が不明のままなのだ。

 サッカー選手が試合中に心停止して倒れた最初の記憶は、2003年6月26日に行われたコンフェデレーションズカップ準決勝のカメルーン代表MFマルク=ビビアン・フォエだ。当時、マンチェスター・シティ所属選手だったこともあって鮮明に覚えているが、無念なことにフォエは救護班の必死の蘇生処置も空しく死亡した。

 そしてその9年後、筆者は実際に選手が心停止した試合に立ち会うことになった。2012年3月17日、当時売り出し中だった快足FW宮市亮の取材で訪れたトッテナム対ボルトンのFAカップ準々決勝だった。小雨が降るなかで行われた世界最古のカップ戦の前半41分、宮市のチームメートだったボルトンMFファブリス・ムアンバがばったりとピッチに倒れ込んだ。

 ピッチ上で唐突に始まった心臓マッサージ。異変に気づいた観客がボルトン、トッテナムの敵味方に関係なく巻き起こしたムアンバ・コール。そしてその理由も入場料の払い戻しの説明もなく、突然の試合中止となったが、速やかに、静かにスタジアムを立ち去った約4万人の観客。そうしたことを鮮やかに覚えている。ムアンバは78分間も心臓停止、つまり一旦死亡しながらも、奇跡的に蘇生した。

 この時、ムアンバの件に立ち会ったことで、スポーツ選手に起こる心停止について多少詳しくなった。無論、先天的な欠陥や合併症というケースもあるが、いわゆる心臓麻痺、心筋梗塞とは違う。こうした心停止は“心臓が危険な鼓動を打つこと”で、若く健康な人間にも起こり得るものだという。つまり心臓の限界を超えるような負担を、身体にかけて起こる不整脈が原因になるということだ。

森 昌利

1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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