英国発“移籍ゴシップ”との付き合い方 海を越え真実のように報じられた驚愕の実体験

マンチェスター・ユナイテッド時代の元日本代表MF香川真司【写真:Getty Images】
マンチェスター・ユナイテッド時代の元日本代表MF香川真司【写真:Getty Images】

【英国発“ゴシップ”斜め読み】マンU時代の香川真司のコメントが“移籍報道”にすり替わった瞬間

 ゴシップとは所詮、噂である。そして英国のタブロイド新聞を賑わす移籍記事は、大抵がこの“ゴシップ”の類だ。だからして、英国の読者もそこは心得たもので、朝にこの手の記事を読んだら、ランチタイムでフットボール好き(まあ大抵の英国男子がフットボール好きなのではあるが)の同僚との他愛もない噂話に花を咲かせるネタにして、夕方には忘れてしまう――という付き合い方をする。

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 ところがこういう話が海を越えると、真実のような響きを持ち始めるから不思議だ。筆者自身も、そんな体験をしたことがある。噂が噂を呼ぶという怖さの実体験だった。

 あれは香川真司のマンチェスター・ユナイテッド2年目だから、2013年秋のことか。シーズン序盤、日本代表MFが新任のデイビッド・モイーズ監督にやや干された形になっていた時のことだ。

 我々日本人記者団が香川の囲みをしたことを知った当時の「デイリー・テレグラフ」主任ライターだったマーク・オグデン記者に、「香川のコメント、くれないか?」と頼まれた。

 マークは西澤明訓がボルトンに移籍した2001年に知り合い、以来、お互いに情報交換をしている間に友人関係も築いて、今でも親交がある。ちなみにこの年、マークはアレックス・ファーガソン監督の勇退をスクープして、英国の最優秀記者賞を受賞して乗りに乗っていた。

 しかし、少し嫌な予感もした。この直前に香川が日本代表に帰った時に、ユナイテッドでの出番が減っていることを聞かれて「監督に聞いてください」と答えたことが、英国でもニュースとなり、問題になっていたからだ。

 けれどもそこは友人の頼み。そこで「今は練習に励むだけ」というような、当たり障りのない箇所を英訳してマークに渡した。

 翌朝、テレグラフに出たマークの記事は、公正なものだった。今季、思うように出番が増えていないが、トレーニング場で成果を上げて、監督にアピールする――そんな内容だった。

 ところが、そこに掲載された香川真司のコメントを使って、あっという間にタブロイド・メディアが“移籍報道”にすり替えてしまったのである。

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森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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