37歳長谷部は進化を止めない 「最速ダッシュ」と知性溢れる「駆け引き」に驚嘆

フランクフルトで活躍を見せるMF長谷部誠【写真:Getty Images】
フランクフルトで活躍を見せるMF長谷部誠【写真:Getty Images】

【ドイツ発コラム】ビーレフェルト戦で最速となる時速33.3kmを記録

 ブンデスリーガの試合後にはその試合におけるデータが公表される。基本的にこうした数字はそのまま評価につながるものではなく、あくまでも参考程度というのはサッカー関係者における常識となっている。ただビーレフェルト対フランクフルト戦における「最速の選手」が、37歳の長谷部誠だったのには驚かされた。

 時速33.3㎞という数字。長谷部がブンデスリーガにおいて、今でも高いレベルのスピードを誇っているのはとても素晴らしいことだが、実際に長谷部のプレーを見ていてそれ以上に驚かされるのが、相手選手が長谷部に振り回されるかのように翻弄されているさまだ。

 モダンサッカーではスピードが重要視されるし、スピードのある選手が重用される。一方で、それ以上に大事なのは緩急のつけ方と使い方だ。最高速度のところで競い合うのではなく、自身のスピードを生かすための駆け引きを持っている選手は強い。

 長谷部はあえて自分のペースをダウンさせる時がある。自分に向かってくるボールに対して、のんびりしているかのように見える時がある。いや、それだと相手に距離を詰められるよ、潰されちゃうよと思わせておいて、ダッシュでボールを奪いに来る相手に対して顔色一つ変えずに、すっと体の向きを変えて、ボールを相手の足が届かないところにスムーズに運んでしまう。

 また、そのタイミング取りが素晴らしい。相手は踏み込んでしまった足を引き戻すことができないまま、そこからなんとか方向転換をしようとするが、その脇を軽やかに抜き出た長谷部が、相手が動いたところにできたスペースにスパッとパスを通してしまう。

 相手守備を崩すためには「ボールを速く動かせ!」とよく言われるが、長谷部はそうしてスピードに強弱をつけることで相手の動きをもコントロールしていく。ボールが取れそうと思うところにボールを置いて引きつける。それをケアして相手がボールを奪いにこないでいると、今度は自分からスルスルっとドリブルで持ち上がり、嫌でも自分に食いつかざるを得ない状況を作り出す。

 とはいえ、相手に囲まれてしまうことがある。ボールを逃がすことができない状況に陥ることだってある。そうした時は自分の体を上手く相手との間に滑り込ませて背中を合わせることで、迫ってくる相手の勢いを逆に利用してファウルをもらってしまう。タイミングがズレたら自分のファウルにもなる可能性があるが、そのあたりの間のつかみ方と呼吸はさすがだ。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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