日本サッカーは“潜在能力”を引き出しているか 旧態依然とした指導で「消える才能」

“耐えた選手”が指導者となり伝統を引き継いでいく

 強豪校へ進むのは、それなりのエリートだ。ところが何割かの選手たちは、理不尽なフィジカル競争だけで見切りをつけられている。逆にそこで勝ち抜いた選手たちは、「あの練習に耐え抜くことができたのが原点」と刻み込み、やがて指導者となり「伝統」を引き継いでいく。

 もちろん、斬新な指導法を導入する流れも生まれてはいるが、前述のJリーガーの例を見ても、サッカーとはかけ離れた要因で消えてしまう才能が無数にあるのは想像に難くない。

 だが、途中でスパイクを脱いだ選手たちには、声を上げる機会がない。一方でサッカーでは他競技に先駆け指導者養成制度も確立されたわけだが、どうしても現役時代のエリート優先の発想は根強く、最近のドイツや旧ユーゴスラビア、イタリアなどのように、競技経験の乏しい名監督が生まれる土壌は整備されていない。

 日本はとりわけアジアでは羨望の的だし、欧州や南米からも少しずつ警戒されているかもしれない。しかし、それはあくまで日本代表やJリーグなどトップレベルの話で、登録選手たちの満喫度合いとは反比例している可能性もある。

 選手たちの幸福度が低いのに頂点だけ強い――。そんなミステリーは長続きしない。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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