日本サッカーは“潜在能力”を引き出しているか 旧態依然とした指導で「消える才能」

プロ創設から急成長しをてきた日本のサッカー(写真はイメージです)【写真:高橋学】
プロ創設から急成長しをてきた日本のサッカー(写真はイメージです)【写真:高橋学】

【識者コラム】エリート育成に成果も…「楽しむ環境の整備」には疑問

 安倍晋三首相が高らかに宣言した。

「日本の感染症への対応は、世界において卓越した模範である」

 確かに感染者や死者などのデータを見れば、そう読み取れるかもしれない。だがまだ成功の要因は解明し切れず、海外は「ミステリー」だと眺め、内閣は支持率を下げている。少なくとも国民の大半は、施策が功を奏したとは見ていない。

 さて日本サッカーもプロ創設から四半世紀ほどで、世界に例を見ない急成長を見せた。1998年フランス大会からワールドカップには皆勤状態を保ち、欧州へ進出して活躍する選手も増加傾向にあり、日本代表、さらには五輪代表でも中核を成すようになった。

 つまり現場の多大な努力が実り、エリートの育成には成果を上げている。だが反面、子供から大人までサッカーを楽しむ環境が整い、潜在能力を引き出し切れているかと言えば疑問が残る。

 かつてある強豪高校の元監督に体験談を聞いた。大学の体育会でフィジカルに自信があった彼は、新卒で私立高校の監督を任せられた。大きな責任と重圧を感じ、連日選手たちを叱咤し長時間のトレーニングに取り組ませた。だがそれでも全国制覇を繰り返す伝統校には歯が立たなかった。

 そこで「もうこれ以上しごけない」と従来のやり方に疑問を覚え、ブラジルから指導者を招聘する。途端に短時間集中型のゲーム中心の練習に変わり、選手たちは楽しく取り組み、空いた時間には個々が課題に取り組むようになった。結局チームは高校選手権でベスト8に進出し、準々決勝では優勝校に1点差と肉薄した。

 当時1年生には、後にJ1でレギュラーとして活躍する選手がいた。しかし身体の小さな彼は、フィジカル中心の長時間練習では完全に埋もれてしまっていた。ブラジルのコーチが来なかったら「きっと辞めていた」と述懐している。一方でそれを吐露してくれた勇気ある元監督も、「あの練習では、彼の技術的な良さが見えてこなかった」と反省している。

 日本もプロができて、特に少数精鋭のJクラブなどでは指導方法やコンセプトも整理されてきた。だが反面、日本では中学、高校と進むにつれクラブの数が減少していくので、大半の選手は部活で育っていくことになる。そして多くの強豪校では、依然として3ケタの大量部員を抱え、旧態依然のふるい落としなども行われている。

page1 page2

加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング