U-18王者が“レベルの落ちる”選手権を過密日程で戦う矛盾 高校サッカーの“健全化”は急務

12月30日から全国高校サッカー選手権が開幕【写真:Football ZONE web】
12月30日から全国高校サッカー選手権が開幕【写真:Football ZONE web】

高校選手権は「レベルと注目度のバランスが最もかけ離れた大会」

 12月15日、高円宮杯U-18プレミアリーグファイナルで青森山田高校が3-2で名古屋グランパスU-18に競り勝ち、高校年代の日本一に輝いた。

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 JFA(日本サッカー協会)は育成年代にリーグ戦の導入を進め、その最高峰がプレミアリーグ。東西で10チームずつ、ホーム&アウェーの総当たり戦を行い、それぞれの優勝チーム同士がファイナルで雌雄を決した。

 リーグ戦は4月上旬に始まり12月上旬に閉幕しているから、各チームは月に2~3試合は消化していく。その下には9地域のプリンスリーグがあり、さらには都道府県レベルまで整備されているので、確かにJFAが主眼とした誰もがコンスタントに試合経験を積める環境には近づいている。

 だがUー18年代の日本一に到達したばかりの青森山田は、約2週間後には再び全国大会に挑む。本来ならJアカデミーを含むクラブも含めて日本一になったチームが、疲労を抱えたままレベルの落ちる高校だけの大会に参加するのは不毛なことだ。例えが不適切なのを承知で言えば、UEFAチャンピオンズリーグを制したリバプールが、シーズンの真っ最中に中東へ遠征し、クラブワールドカップで欧州内よりレベルの落ちる相手の挑戦を受ける構図を彷彿させる。

 ただし欧州王者のリバプールとは異なり、おそらく青森山田はプレミア・ファイナル以上のモチベーションで高校選手権に臨むはずだ。それは長い歴史を築いてきた「選手権」が、依然として高校生たちにとっては魅力的な舞台に映るからである。

 関東大学選手権に過ぎない箱根駅伝と並び、高校選手権はレベルと注目度のバランスが最もかけ離れた大会だ。本大会へ進めば、1回戦から活躍した選手の周りには報道陣の大きな輪ができる。しかも大会は3年間の集大成と捉えられ、負けた瞬間に仲間との部活も終焉を迎えるから、個々の選手たちはワールドカップ級の熱量で戦い抜く。筋書きのない青春ドラマが生まれる由縁だ。

 しかしだからこそ大人は選手個々の未来を見据え、科学的根拠に基づきブレーキをかけなければならない。もともと高体連のスケジュールは、世界的見地からしても異例に過密だったのだ。地域ごとでばらつきはあるが、選手権が終わった途端に新人戦が始まり、都道府県大会を経て地域大会、さらにはインターハイ予選に続き、真夏には地獄の本大会が待っている。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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