“大人”になった絶対王者バイエルンの象徴 不遇を乗り越え復権「僕はいつでも勝ちたい」

前線からの積極的な守備でチームを支えたミュラー【写真:Getty Images】
前線からの積極的な守備でチームを支えたミュラー【写真:Getty Images】

30歳となった自然体の“象徴” 「誰よりも走って、戦って、組織を整えていく」

 2000年に11歳で下部組織に入って以来、バイエルン一筋でプレーするミュラーは、ファンにとってクラブの象徴そのものだ。08年に18歳でプロデビューを飾ると、当時の監督だったルイス・ファン・ハールから「ミュラーはいつもプレーする」と絶大な信頼を得て、ドイツの名門での地位を一気に確立する。

 20歳で出場した南アフリカW杯では、ドイツ代表として5得点をあげて大会得点王に輝く。そうしたキャリアだけではなく、そしてピッチ上におけるプレーもさることながら、常に自然体で、笑顔を絶やさず、ポジティブなオーラを出すミュラーは、バイエルンにおいて今も欠かすことができない存在なのだ。

 ミュラーは信頼して起用してくれたフリックに、プレーで返した。

「信頼して起用してくれた。僕らが誇る前線のクオリティーは間違いない。そのなかで指示を出す役割を担い、誰よりも走って、戦って、組織を整えていく。ゴールは今でももちろん狙っているけど、大事なのは僕らのプレーをやり通すことなんだ」

 攻撃的な選手である以上、いつでもゴール数で測られるのは宿命かもしれない。そしてミュラー自身も「プロ選手になったばかりの頃は、ゴールの数で自分のプレーを測っていたりもしたよ」と当時を振り返る。だが今のミュラーは、誰よりもチームのことを考えてプレーする“大人の選手”になっている。

「年を重ねるごとにチームの中で責任を担って、チームのためのプレーをより大事にするようになってきたと思う。いつでもペナルティーエリア内にいることだけを考えるわけではない。ゴールを狙うだけではなく、相手のカウンターを防ぐためにすぐに汗をかいて守備をするとかね。ピッチに立っている限り、僕はいつでも試合に勝ちたいし、そのための仕事を探してプレーしているんだ」

 パスを引き出し、ボールを追いかけ、体を張って守備をして、またスペースに走り出していく。そうしたチームプレーに汗をかきながら、ゴールへの道を作り出すのがミュラーの真骨頂だ。

 この日も見事な動き出しとパスで2アシストをマーク。ブンデスリーガ通算アシスト数は「101」と、ついに大台に乗せた。これは歴代ナンバーワンの成績だ。30歳となったバイエルンの生き字引は、今も成長を続けている。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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