アジア杯で考える「サッカーと審判の未来」 人間より“機械を信用する”流れは止まらない
準々決勝からVARを導入、グループリーグでは微妙な判定が続出
アジアカップでもついにVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が、今大会の準々決勝から導入される。もうこの流れは止まらないだろう。
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グループリーグ第3戦のオーストラリア対シリア(3-2)では、判定を巡って何回か揉めていた。
1-1で迎えた後半9分のオーストラリアの2点目は、シリアのDFがゴール内に体を投げ出しシュートをクリアしている。主審はボールが完全にゴールラインを越えたとして得点を宣した。シリアの選手たちは執拗に抗議し、スタジアムのビジョンに映し出されたリプレー映像を指して「ほら、ノーゴールじゃないか!」と主張している選手もいた。実はリプレーでもゴールに見えたのだが、選手がゴールライン上にいる追加副審よりもビデオを信用していた様子が興味深かった。
その後、オーストラリアのマーク・ミリガンに自陣ペナルティーエリア内で明らかなハンドがあった時も見逃され、シリアの不満は爆発寸前に。メキシコ人の主審は、バランスを取るように後でシリアにもPKを与えていた。
オマーン戦の長友佑都のハンドも、VARがこの時点で導入されていたらPKになっていたと思う。判定を正確に行うには機械の助けを借りたほうがいいのは、今や常識になってきている。前述したシリア選手の例を引くまでもなく、選手も人間より機械を信用しているのだ。
正確さという点で、人間は機械に敵わない。だから、そのうち判定が全部機械になっても不思議ではない。アジアカップでのVAR導入が準々決勝以降なのは人件費が高いうえに、人数も揃えられないからだという。ロシア・ワールドカップで全試合に導入されたVARは、ヨーロッパ各国のリーグでも採用されつつある。審判に文句を言う選手も、VARを出されると何も言わない。
全世界のすべての試合にVARが導入されることはないが、それはモラルの問題ではなく、単に費用の問題であり、つまりVARの“ある・なし”は「お金」にかかっていて、今やVARはリーグのステータスと言えるかもしれない。そもそも、機械判定の導入が進んだのも「お金」の問題が大きい。大金が動く現代のプロスポーツでは、人為的な判定ミスが許容されなくなったことが始まりだった。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。