伊藤達哉とハンブルガー“残留神話”を支えるもの 主将が送る「満足するな」の言葉

キャプテン酒井高徳が慈愛に満ちたメッセージを送った【写真:Getty Images】
キャプテン酒井高徳が慈愛に満ちたメッセージを送った【写真:Getty Images】

 彼が気を引き締めるのには理由がある。名門・ハンブルガーを降格させてはならないという責任感。紆余曲折がありながらもシーズン終盤戦にきてつかんだチャンス。そして何より、この日の伊藤はチームメイトから熱く、慈愛に満ちたメッセージを送られていた。

 右サイドバックでフル出場したキャプテンの日本代表DF酒井高徳が語る。

「(伊藤は)ウチのチームの武器。これまでは監督が代わって出場機会を失ったりもしましたけども、こういう時こそチャンスを生かさなきゃならない。彼はまだ若いから、ここで満足しないでほしいですね。前半で2点に絡んで、ハーフタイムには本人を褒めたんですけど、でも『お前がもっと上へ行くためには、これからだぞ』とも言ったんです。『ここでお前がどれだけ守備をできるか』とか、『お前がどれだけ攻撃で脅威になり続けられるか』とね。『ここで満足して後半、何もなかったら、意味がなくなってしまう。いろいろなレベルを見ていくためには必要なことだから、こういう時こそ自分で決めてやるつもりで行け』と言って、後半は送り出しましたけどね。彼はそれをしっかり聞いてくれて、後半も非常に頼もしいプレーを見せてくれました」

 なるほど。このキャプテンの存在があるからこそ、伊藤は自らの力を出し惜しむことなく、慢心することなくピッチを駆けることができる。サッカーは一人でプレーするものではなく、チーム全体で目標を成し遂げ、成果を得る競技だ。伊藤がドイツで自らの価値を示し始め、ハンブルガーが毎年終盤になって底力を発揮する理由は、その対象を注視し、献身的に支える者の存在があるからなのだと達観した。

(島崎英純/Hidezumi Shimazaki)



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島崎英純

1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。

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