日本の高校生は「まだ足りない」 U-17選抜指揮で痛感…戸田和幸氏が明かす欧州との「決定的な差」

U-17日本選抜を指導した元日本代表の戸田和幸氏【写真:本人提供】
U-17日本選抜を指導した元日本代表の戸田和幸氏【写真:本人提供】

国際大会を通して感じた日本と欧州の“スタンダード”の違い

 解説者としての顔も持つ元日本代表MF戸田和幸氏は今年8月、オランダで開催された国際大会に出場したU-17日本選抜の監督を務めた。急造チーム、超過密な日程という厳しい状況下でありながらも収めた3位という成績。ただ、結果への手応え以上に、この大会は戸田氏に日本と欧州における育成年代に対する取り組みの違いを気づかせる場となった。(取材・文=元川悦子/全3回の2回目)

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 8月にU-17日本選抜を率いて「MVVマーストリヒトカップ2026」に出場した戸田和幸監督。彼が実際に選手と会ったのは8月9日。そこから11日まで北海道函館市でトレーニングを行い、成田空港へ移動して12日にオランダに向けて出発することになっていたが、台風接近のため練習回数が当初予定の4回から3回に減少してしまった。

 選手たちを欧州基準に引き上げる時間的余裕はなかったが、頭を切り替えさせるために、合宿初日の9日のミーティングで到着翌日の13日に練習試合をすることになっていたアヤックスの映像を見せ、ポイントを指示した。

「アヤックスは大会に出ていなかったのですが、大会前日に練習試合を組んでいただいていたので、アヤックスU-16対バルセロナU-16の試合映像を探し出して、事前に確認しておきました。彼らの試合を見ると、すでにトップレベルと同じ基準でプレーしていてかなりのレベルだった。そことのゲームでビビってしまったり、大敗という結果になったりしてしまうと、大会でどうのこうのという前にその時点でチームが終わってしまう可能性がある。

 短期決戦ということもありますが、チームとしての心構え、ボール保持・非保持の時にベースとなる部分については明確に提示をしたうえで、アヤックスとの試合に臨みました。

 僕らは3バックを採用しましたが、気がついたら5-4-1でズルズル下がってしまうような戦いにはしたくなかったので、非保持の時は3-5-2をベースに、前に出るプレスと待つ守備の2つに絞り、選手たちが頭をスッキリさせてプレーできるように約束事を決めたんです」

 試合は結果的に0-1の敗戦に終わったが、それでも戸田はチーム全体に好感触を掴んだ。

「日程的には丸2日かけての移動翌日に組まれた試合だったので、時差対策も含め失敗できない状況でしたが、幸いにもみんながいい取り組みをしてくれたので、時差の影響も最小限にとどめることができました。アヤックス戦には敗れたものの、決定機を4つ作りましたし、選手のパフォーマンス・表情・言葉からもいい感触を得られました。『アヤックス戦までが第1フェーズだよ』と伝えて駆け足で進めていきましたが、コーチ・選手全員が前のめりになってすべてに取り組んでくれたおかげでいい試合ができた。大会で勝負できる状態になれる可能性があると前向きに感じられました」

 15日からは大会(30分ハーフ形式)に突入。ユトレヒト、シント=トロイデン、AZとグループリーグを戦い、それぞれ2-2、0-0、2-0という結果を収めた。1位で通過して16日の準決勝でロイヤル・アントワープと激突。この試合は0-0でPK負けし、3位決定戦に回ることになったが、そこで初日に引き分けているユトレヒトと再戦。最終的に0-0でPK勝ちし、3位という結果を残すことができた。

 戸田は日頃から解説者として分析眼に磨きをかけているとあって、大会で感じた日本と欧州の間にある育成年代の“取り組みの違い”をこう指摘する。

「最終的に優勝したのはロイヤル・アントワープだったんですけど、彼らはフィジカルもスピードも技術的な部分も備えていて、ベースの4-2-3-1からの可変で、偽CBを採用して、質の高い保持局面を構築するなど、個人としても集団としてもレベルの高い戦いを見せられました。

 ビジャレアルとは対戦できずに大会を終えたことが個人的には残念でしたが、彼らからは『さすがはスペインのチーム・選手』というインテリジェンスの高さを随所に感じられました。それ以外の出場チームに関しても、GKが関与しての攻撃のビルドアップを当たり前のこととして実行していた。この点に関しては日本の高校生年代にはまだ足りない部分ではないかと改めて感じました。

 高校総体を視察した時も、基本的に自陣からの前進は前線に蹴るスタイルがほとんどだった。欧州のチームが実践していたことは違っていました。GKの足技がまず上手で、近くにも遠くにもボールを配給できる。守備はマンツーマンがヨーロッパの育成年代でもスタンダードとなっていて、だからこそGKからのゲーム構築が必要になる、GKまでプレスに来られた時につなぐ・蹴るの判断をしっかり行えることが、GKに求められるスタンダードになっています。

 今回参加した2人のGKはともにJクラブのアカデミーに所属している選手でしたが、チームでも今回対戦した欧州のチームのような取り組みまでは行っていないということでした。

 現状として、日本の育成年代の取り組みと欧州のスタンダードにはまだ違いもあるとは思いますが、GKだけでなくCBやMFも含め、スタートが早い方が失敗しながらチャレンジしていけるので、高いレベルを目指すそうと思うのであれば、早い段階から日常的に取り組んでいく必要があると思います」

 目下、日本人で最もハイレベルな環境でプレーしているGKは鈴木彩艶(アストン・ヴィラ)だが、彼も浦和レッズにいた頃まではそこまでビルドアップに関与していたわけではなかっただろう。シント=トロイデン、パルマを経て、徐々にそれを求められ、イングランド・プレミアリーグにステップアップした今は遜色なくやれているが、育成年代から日常になっていたら、もっともっと早く最高峰リーグに行けていたかもしれないのだ。

 それはセンターバック(CB)にしても同様ではないか。板倉滉(ボルシアMG)、冨安健洋(クリスタル・パレス)、伊藤洋輝(バイエルン・ミュンヘン)ら日本代表のCB陣は足技に秀でており、プレスを受けても怖がらずにボールを運べるが、日本人DFの全員がそのレベルにあるとは言い切れないものがある。

戸田は世界大会を監督として戦ってみて、改めて重要なポイントを実感した。

「今のJリーグを見ていると、フィジカルを含めたインテンシティとトランジションの方が優先になっている傾向が強いのかなと。特に近年優勝したヴィッセル神戸や鹿島アントラーズはそうだと思います。

 それ自体の善し悪しがどうこうということではなく、近年のJリーグの傾向としては、プレッシングとトランジションをベースに成果を上げてきたクラブが目立ちます。

 2026年北中米W杯を振り返ってみると、トーナメントに進出した国はみな、一様にボールを運び、保持できる能力を兼ね備えていました。相手のプレスを外して時間を作ったり、相手の勢いを利用して敵陣に入ったりするようなプレーがないと、守備の時間が長くなってしまう。今大会で世界を驚かせたカーボベルデのような馴染みのなかった新興国でさえ、守る時は全員で一生懸命に守り、奪ったボールはカウンターから始めて、保持局面に移行した時には幅も使いながら果敢に仕掛けるといったプレーを見せていた。プレスや自陣守備はフットボールをする時には必ず必要になるものですが、ボールを持ってプレーすることの重要性は自分が率いたチームからも再認識した部分です」

 欧州との違いを踏まえての難しさ、今後に向けた課題を感じた部分はあったにせよ、即席チームで5試合を戦って2失点というのは悪くない数字だったのではないか。他チームはどこも年間通して活動しているアカデミー。選手個々の特徴や個性をお互いに理解したうえで戦ってきた。そういう相手に真っ向からぶつかり、勇敢にバトルを繰り広げた選手たちを戸田監督は誇りに感じている。同時に育成年代を率いる醍醐味と楽しさを心から体感できたようだ。
(文中敬称略、第3回に続く)

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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