J1の“判定基準”まだ甘い? W杯との比較で見えた「1.3倍」の差…迫力と負傷のトレードオフ

北中米W杯とJ1の判定基準に見る差異(写真はイメージ)【写真:徳原隆元】
北中米W杯とJ1の判定基準に見る差異(写真はイメージ)【写真:徳原隆元】

北中米W杯とJ1、1試合平均の直接FK数を比較

 今年の北中米ワールドカップ(W杯)を見て、個人と国の威信をかけた戦いの迫力を味わった人は多いだろう。あの熱量がJリーグでも再現されることを願いたいものだ。

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 あの迫力の要素のうち、何がJリーグと違っているかを考えてみよう。あらかじめ断っておくが、W杯の激しさは短期決戦ゆえのものである。あのテンションを長丁場のリーグ戦で毎試合続けられるかといえば、決してそうではないし、そうできない理由もある。

 ここではW杯の決勝トーナメントを取り上げる。J1リーグと比較するため、延長戦に入らなかった以下の11試合を抽出した(カッコ内の数字は両チーム合わせた直接FKの数)。

パラグアイ(10)vsフランス(12)
カナダ(14)vsモロッコ(24)
ポルトガル(13)vsスペイン(9)
アメリカ(9)vsベルギー(11)
ブラジル(4)vsノルウェー(7)
メキシコ(6)vsイングランド(11)
アルゼンチン(10)vsエジプト(13)
フランス(12)vsモロッコ(10)
スペイン(18)vsベルギー(13)
フランス(12)vsスペイン(10)
イングランド(15)vsアルゼンチン(11)

 直接FKの合計が最も少なかったのはブラジルvsノルウェーの11回、最も多かったのはカナダvsモロッコの38回。11試合の平均は約23回である。

 では、J1リーグを見てみよう。以下の数字は、1節につき10試合分の直接FKを合計したものだ。

第1節 213
第2節 225
第3節 204
第4節 202
第5節 197
第6節 224
第7節 213

 最も多かったのは第3節の横浜FMvs神戸(両チーム合計38回)。逆に最も少なかったのは第5節のC大阪vs柏(両チーム合計8回)という、ファウルの少ないゲームだった。

 第7節終了時点で、1試合平均の直接FK数は約21回(合計1478回)となっている。少し詳しく推移を見ていこう。

 第1節、第2節は暑さに加え、試合勘が戻りきっていない状態でのプレーだったため、ファウルや退場が多かった。その後コンディションは落ち着いたものの、試合日程が詰まってきた第6節、第7節で再び直接FKが増加している。

 そこで、試合勘の不足からファウルが増えた開幕当初(第1・2節)と、過密日程による疲労が露呈した時期(第6・7節)を除外し、安定していた「第3節から第5節」だけで計算してみる。それでもJ1リーグの1試合平均直接FK数は約20回となり、ワールドカップの23回と大きな差はない。

 ところが「警告数」まで加味すると、解釈は少し変わってくる。J1リーグの第7節までの1試合平均警告数が2.7枚なのに対し、先述のワールドカップ11試合では3.8枚。「1回の直接FKに対して警告が出される確率」は、ワールドカップの方が約1.3倍も高いのだ。

 この確率で警告が出続ければ、リーグ戦では出場停止者が続出してしまう。だからこそ、ワールドカップのような戦い方をそのままリーグ戦に持ち込むことはできない。一方で、この「1.3倍」という確率の差からは、大きく2つのことが読み取れる。

 1つは、ワールドカップでは「少々のことではファウルを取らない」という傾向だ。ファウルを取られる時点で相当程度が激しく、イエローカードに近いプレーにだけ笛が鳴っていると考えられる。選手同士が抱きつくような体勢になっても、ボールが動いていればそのままプレーが続行されていたシーンを記憶している人もいるだろう。

 もう1つ浮き彫りになるのは、Jリーグにおける「判定基準」という課題である。ワールドカップの基準に合わせれば、球際のぶつかり合いが増え、試合はより熱を帯びるかもしれない。しかし同時に負傷のリスクも跳ね上がる。レフェリーは選手の安全を考慮して笛を吹いているが、果たして今の基準がベストなのか。迫力と負傷リスクのトレードオフをどう捉えるべきか。

 ここで「もっと笛を吹かないほうがいい」と安直に主張すれば、怪我人が出た際に批判を浴びるだろう。だが、怪我をするまで止めないでほしいと言っているわけではない。選手は少々の接触でも耐えてボールを動かそうと粘り、主審はその姿勢を尊重して少しだけ笛を遅らせる。それだけでも、世界基準の激しさに近づくのではないかと思うのだ。

 そして究極的には、その激しいプレッシャーすらもすべて圧倒的な技術でかわしていけるようなチームが生まれること。それこそが、体格で劣る日本人が世界を獲るための道筋ではないかと夢見ている。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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