亡き親友に誓う「あいつの分もプロになって」 同部屋で語り合った夢…“ラスト1年”の決意

桐蔭横浜大の谷合善祇【写真:安藤隆人】
桐蔭横浜大の谷合善祇【写真:安藤隆人】

桐蔭横浜大学のGK谷合善祇「毎日を全力で積み上げるしかない」

 9月2日から12日にかけて行われる大学サッカー日本一を決める第50回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント。ここではこの大会で躍動した選手に迫っていく。

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 2回戦・桐蔭横浜大vs法政大の一戦。試合前のロッカー付近で何度も深呼吸をし、気合の入った表情を浮かべる桐蔭横浜大・4年生GK谷合善祇(たにあい・よしまさ)の姿を見た。筆者に気付き、頭を下げて挨拶をしてくれた後、「やります」と呟いてロッカーへ引き上げていった。

 この試合でスタメン出場を飾った谷合は、前半に相手の連動した攻撃の前にDFラインを崩されて2失点を喫したが、後半は相手を押し込むなかで、カウンターのピンチを迎えても、冷静な飛び出しやシュートストップで追加点を与えなかった。1点を返して迎えた後半32分には、法政大FW前田康尋との1対1で鋭い飛び出しからビッグセーブ。相手に流れを渡さず、後半43分にはFW宮下拓弥が同点ゴールを叩き込んだ。

 延長戦に入っても谷合は安定したゴールキーピングを見せて失点を許さず、延長後半アディショナルタイムにPKを得意とする同じ4年生のGKベンマムン・アミンと交代。PK戦ではアミンが2本を止めて、準々決勝進出を決めた。

「PK戦まで守り切りたかったのが本音ですが、一番大事なのはチームの勝利なので、アミンに感謝しています」

 事前にPK戦の可能性が濃厚になったら交代すると伝えられていた。GKとしては当然、「自分に任せてほしい」という気持ちもあった。だが、谷合はその思いを飲み込み、仲間の活躍とチームの勝利を素直に喜んだ。そしてすぐに、自分自身に矢印を向けた。

「スタメンで出られることは当たり前じゃない。今年に入っても最初はずっと(3年生GK神保)颯汰が出ていたし、途中でスタメンを掴むことができても、そこからは試合に負けたらGKが変わるという状況でした。だからこそ、僕は出場した以上、絶対に負けられないんです」

 谷合の言葉どおり、今年の初めは桐蔭学園高出身で、1学年下の神保が守護神の座を掴んでいた。そんななかでも後輩をサポートしながら、悔しさをバネにコツコツと自分のストロングであるキックやセービングを磨き続け、関東大学サッカーリーグ1部・第7節の法政大戦でスタメンの座を奪い取った。

 しかし、2試合連続スタメンとなった第8節の日本大戦で敗れると、次節は再び神保がスタメンに。第10節の駒澤大戦で敗れると、前期最終戦となった第11節の早稲田大戦で谷合がスタメンに戻った。

 そして、総理大臣杯1回戦の札幌大戦でスタメン出場し、クリーンシートでの勝利に導いてから臨んだ2回戦の法政大戦だった。

「1試合、1試合背負うものがあるというか、僕にとってはどれも重要な一戦なんです。今日の試合でアミンがPKを止めてヒーローになったからこそ、準々決勝以降は颯太と3人でのポジション争いが激化するし、ベンチも危うくなるかもしれない。必ず次が約束されているわけではないという危機感はありますし、時にはそれが苦しいなと思う時はありますが、全てに意味があると思っています」

 試合前の表情と同じように、ミックスゾーンでも鋭い眼差しと気合に満ちた表情を浮かべる。「1試合、1試合を大切にする」という気持ちは、谷合の実直な人間性から生まれるものであることはもちろんだが、もう1つ、絶対に諦めてはいけない理由が谷合にはあった。

「サッカーをやりたくてもやれない人がいる中で、僕はサッカーをやることができる。競争が激しくても、厳しい状況でも下を向いていられないんです」

 昨年7月、桐蔭横浜大でチームメイトのDF川邊暁がこの世を去った。川邊は同じ流通経済大柏高出身で、寮では同部屋の仲だった。

「流経柏でも本当に厳しい競争があって、僕も川邊も苦しんでいた時期があった。でも、部屋に戻ると『頑張ろうな』と励まし合ったし、同じ大学に進むことが決まってからは、『2人でプロになろうな』と話してきた。その仲間が突然いなくなって、今もまだ信じられない気持ちがあって、受け入れられない気持ちがありますが、必ずどこかで見てくれていると思うし、川邊の人生も背負っていると思っています。あいつの分もプロになって、試合に出て、1つでも上の景色を見せてあげたいんです。それがあいつや、ご両親へ伝えられる想いだと思うので、僕はどんなことがあっても途中で投げ出すわけにはいかないんです」

 やらなければいけない責任がある。心に刻んでいる思いがある。

「僕はプロになっていい車に乗りたいわけでも、有名になりたいわけでもありません。ただ、大好きなサッカーで生活することができるなら、そのチャンスを掴みたい。もちろん、まだまだ実力不足だということはわかっているからこそ、そこは真摯に受け止めて、毎日を全力で積み上げるしかないと思っています」

 勝利に浮かれる様子は一切ない。だが、試合に出ることができる幸せを噛み締めながら、目の前の一戦に全力を注いでいる。

「ここから先、『やっぱり谷合じゃないといけないな』と思わせていきたいと思います」

 東北の地で確固たる決意と覚悟を持ってピッチを踏み締める谷合善祇。かつて同じ部屋で「2人でプロになろう」と誓った亡き親友の想い、頂点を目指すチームの仲間の想い、そして自分自身の未来のために。その熱い魂をプレーに変えながら、一つでも上の景色を目指してゴールマウスに立ち続ける。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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