C大阪でトップ昇格ならず「自分本位だった」 関西の強豪10番が“応援バス”で胸に刻んだ責任

京都産業大学の皿良立輝「しっかりと背負って戦っていきたい」
9月2日から12日にかけて行われる大学サッカー日本一を決める第50回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント。ここではこの大会で躍動した選手に迫っていく。
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2回戦の九州産業大vs京都産業大の一戦。2-2で迎えた後半33分、ピッチサイドに背番号10のMF皿良立輝(さらら・りつき)が姿を現した。7月下旬に足の甲を負傷し、1か月の離脱。その間にチームは天皇杯で3回戦進出を決め、2回戦ではJ1の水戸ホーリーホックを2-0で撃破するなど、大きなインパクトを残した。
その金星を挙げた試合をスタンドで応援していた皿良は、より逞しさを増した表情でピッチに帰ってきた。
準々決勝進出をかけた緊迫の展開で、右のインサイドハーフに入ると、ファーストプレーで浮き球のボールを正確なタッチで足元に収め、味方にテンポよく展開するなど、持ち前の高い技術を生かした軽やかなプレーを披露する。
ドリブルで引っ掛かるシーンもあったが、一瞬でも隙を与えたら前にボールを運び、巧みなパスと一瞬のアジリティーで相手の矢印を折ってから、味方を活用してスルスルと前のスペースに入っていくプレーは健在だった。
攻撃に厚みが出たチームは後半アディショナルタイムにU-21日本代表のMF福永裕也が強烈なカットインからミドルシュートを突き刺して、3-2の勝利。皿良はゴールには絡まなかったが、短い時間でスペースと人をつなぐ中盤の支配者としての片鱗を見せた。
「視野の確保など、まだ試合勘が鈍っているところもあって、難しさは感じましたが、それでも慌てることなく冷静にやれることをやろうとすることはできたと思います。もちろん反省点はありますが、今日は今日でまずはピッチでプレーできたことをポジティブに受け止めて、次に向けてしっかりと準備したいと思っています」
こう試合後に語った皿良の言葉こそが、大学サッカーにやってきて掴んだ大きな成長の証だった。
皿良の持つ技術とエレガントさはセレッソ大阪のアカデミー時代から高く評価されてきた。セレッソ大阪U-18では10番とキャプテンを任され、トップチームにも2種登録された。しかし、トップ昇格には至らず、「4年をかけて、サッカーだけではなく、人間としても成長していきたい」という思いで京都産業大へ進学を決意した。
そこで目の当たりにしたのは、少数精鋭の環境から、多くの部員が集まってしのぎを削るだけでなく、サッカー部全体で行動する新たな環境だった。
当然、公式戦のピッチに立てるのはその中の一握りで、トップチームで試合に出ている選手の後ろには、多くの下のカテゴリーでプレーする選手たちがいる。1年生の頃から出番を掴んできた皿良が試合に出られない時、それは別の選手にチャンスが巡ってくることを意味する。その選手が引き上げられれば、また別の選手に新たなチャンスが生まれる。試合に出られない選手たちが、そのチャンスを狙いながらもチームのために働き続けている姿を間近で見て、皿良の中で「チームのために戦う」という意識が日に日に強くなっていった。
「セレッソの時は自分本位だったというか、自分が上手くなることに必死でした」
それは決して悪いことではない。トップ昇格を目指して自分が上手くなる努力を続けることは当たり前のことだ。だが、その気持ちに支配されてしまうと、独りよがりになってしまったり、周りに対しても自分の考えを押し付けてしまったりするなど、いろいろな弊害が生まれる。それは皿良にとっても同じだった。
「これまでは自分のミスや味方のミスに敏感になってしまって、そこから自分のプレーリズムが崩れたり、メンタル面で影響が出てしまったりしていました。例えば試合開始のファーストプレーでミスをすると、それを90分間引きずってしまうこともあった。『あ、ダメだ』と思ったら、本当にそのままダメになることもあったんです。
でも、大学に入ってチームのために動くことが当たり前になってから、それらをポジティブに受け止められるようになったんです。1つ1つのプレーにわざわざ反応するのではなく、『さあ、次をやろう』と考えることで、心に余裕ができて、それがプレーの余裕につながっているのだと思います」
この捉え方の変化が皿良を大きく変えた。ピッチの中で技術と感覚を磨く一方で、ピッチ外ではチームの仕事や別カテゴリーの応援を重ねていくうちに、周りの人たちの気持ちを理解し、かつ行動を把握し、それを自分に置き換えて次に何をすべきかと目を配る。自ら気づいて率先して行動するようになったことで、感性も磨かれていった。
だからこそ、いざ試合でネガティブなことが起こっても、1つのことに囚われることなく、視野を広げて次にやるべきことを見つけられる。そこに考え方の柔軟性と責任感が生まれ、それが皿良の言う冷静さと余裕につながっていた。
そして、今回の1か月の離脱でさらに『支えられている』という感覚を実感することができた。
「正直、水戸戦はみんながプロ相手に躍動をして、大きなインパクトを残す勝利を挙げた時は嬉しかったけど、ピッチに立てない悔しさは感じました。でも、天皇杯の初戦と2回戦を、トップチームとは別の応援する選手たちのバスに乗って長い時間をかけて移動して応援した時間は、僕にとって本当に重要な時間でした。みんなとコミュニケーションを取ったり、出ている選手たちをサポートしたりしたことで、より出られない選手たちの気持ちがわかったし、ピッチに立つ責任感の重さも感じました。
今大会は自分の復帰ということだけではなく、これまでのチームの想いもしっかりと背負って戦っていきたいという思いが強いんです。それに準々決勝まで進出できたのも、周りの選手が繋いでくれたおかげ。だからこそ、ここからはもっと自分もチームに貢献して、吉川(拓也)監督など、お世話になったスタッフの人たちにトロフィーを掲げさせたいという気持ちが強い。さらにその先にはみんなが作ってくれた横浜F・マリノス(天皇杯3回戦)と戦えるチャンスもあるので、自覚と責任を持ってプレーしていきたいと思います」
自分が上手くなることだけを考えていた少年が、周囲の想いに目を向けるようになった。大学生活の中で「利他の精神」が芽生えたことで、皿良の視野はピッチの外だけでなく、ピッチの中でも大きく広がっていった。
自分のためから、誰かのためへ――。広がった視野で仲間の思いを背負いながら、10番は再び、自らの未来を切り拓いていく。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。





















