J1最多の“714”も「納得いかない」 リーグ屈指のSBに成長も…こだわる自分主導「嫌がることを」

今季清水に加入した須貝英大【写真:Getty Images】
今季清水に加入した須貝英大【写真:Getty Images】

今季から清水に加入した須貝英大

 J1リーグ開幕から5試合を終えて1勝1分3敗の勝ち点4。清水エスパルスは決して順調なスタートを切ったとは言えない。

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 第5節のホーム・FC東京戦でも相手のダブルボランチのボール運びから展開されるハイテンポな攻撃に手を焼き、先制を許すなど劣勢を強いられた。それでも、追加点を与えずに後半8分、FW木下康介のゴールで同点に追いつき、ドロー決着となった。

 この試合で目を引いたのが、清水の右サイドで絶大な存在感を放つDF須貝英大のプレーだ。

 今季、京都サンガF.C.から完全移籍でやってきた須貝は、相手がサイドにボールを運んだ瞬間に一気に距離を詰める。縦突破を仕掛けられても、エンドラインから15メートルほどの危険なゾーンではさらに守備強度を上げ、相手に前を向かせず、突破されそうになっても身体を寄せ続ける。

 それだけではない。ボールを奪い、清水が攻撃に転じた瞬間には一気に前へ出ていく。右サイドでMF松崎快らと絡みながら縦へのスライドを繰り返し、高速スプリントから相手陣内深くまで侵入していく。守備で最後まで足を使った直後でも、躊躇なく前へ出る。この姿こそ、須貝という選手の真骨頂だ。

 昨季のJ1で彼が記録した総スプリント数は714回。これはJ1リーグ最多だった。スプリントに妥協を許さない曺貴裁監督(現・浦和レッズ監督)が求める強度の高いサッカーを見事に体現し、京都の右サイドバックとして確固たる地位を築いた。だが、本人はその数字自体に大きな意味を持たせていない。

「スプリント数にはあまりこだわっていないんです。もちろんその回数が多いことは相手が嫌がるプレーができている証拠だとは思います。ただ、大事なのは受け身のスプリントではなく、どれだけ自分で主導的に相手の嫌がることを仕掛けられるかだと思っています」

 この「主導的」という言葉が実に彼らしい。筆者が彼を初めて取材した浜松開誠館高時代から、明治大を経てプロに至るまで、その成長を見てきた。当時から豊富な運動量を持っていたが、大学で時間を重ねるにつれてフィジカルの強度が一気に増し、対人の安定感とプレーの迫力が加わっていった。

 強度とスピードで相手を凌駕する一方で、「僕としては『ただ強度だけがある選手だね』と思われるのは納得がいかない」と口にしたように、駆け引きで上回り、意図的なスプリントで相手を翻弄したり、チームのサイド攻撃に厚みをもたらしたりするプレーにもこだわってきた。

 その結果、地元・ヴァンフォーレ甲府でプロキャリアをスタートさせると、鹿島アントラーズでは思うように出場機会を伸ばせない時期を過ごしたものの、そこでさらに磨いた土台が昨年移籍をした京都で花開き、J1屈指の運動量を誇るサイドバックへと成長を遂げた。その須貝が今季、新天地として選んだのが清水だった。

「エスパルスの話を聞いていく中で、もう一段階、自分の特徴を出せると感じましたし、もっと成長できると思って移籍を決めました」

 清水は4バックでスタートしながら、攻撃時には最終ラインが3枚になるなど立ち位置を変える。その中でサイドバックにはウイングをサポートしたり、追い越したりする動き、守備になった時にすぐに立ち位置に戻ることを含めた激しい上下動が求められる。

「そこで自分のスプリント能力は十分に生かせる。味方を使いながらオーバーラップして、相手の危険なゾーンに走り込んでいくところも自分の良さだと思っています」

 だからこそ、FC東京戦で見せた姿は、清水が彼に求めているものと、彼自身が積み上げてきたものが重なり始めている証でもあった。

 高校卒業から約8年。明治大、甲府、鹿島、京都で積み重ねてきたものを携え、再び静岡へ戻ってきた。

「もともとエスパルスは高校の時から意識するチームの一つでした。アイスタ(IAIスタジアム日本平)は選手権予選などで戦う場所でしたし、縁があるクラブだと思っていました。高校を卒業してからは静岡に来る機会はあまりなかったのですが、本当に縁がありましたね」

 ここに来たのも一つの運命。決意を持って地元・山梨からやってきた10代の自分から、経験と自信を手にして勝負の1年を迎える27歳の自分へ。点と点をつなぎ合わせていく須貝の踏み出す一歩一歩が、まだ波に乗り切れていない清水を前へと押し出す力になる。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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