苦境のJ名門で薄れる特異性「別世界」 “3ケタ”1人、明確になった戦力差…完敗は「必然だった」

技と駆け引きで日本サッカー界をリードしてきた東京V
故障者が連なる東京ヴェルディが4節も鹿島アントラーズに完敗し、ここまで未勝利が続いている。
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
ようやく復帰した森田晃樹が前半41分に再び故障で、また攻撃の核になる染野唯月が後半15分に脳震盪で退いたこともあり、決定機は1つも作れず、鹿島には25本のシュートを浴びて2失点をした。
東京Vの城福浩監督が特に悔やんだのは先制のシーンだった。
「前から掴みに行った局面で3連敗した結果だった。一生懸命やりました、で良いというものではない。必死にやるというのは駆け引きも含めたプレーで、それがあればどこかで潰せていたと思う」
だが現実的には、東京Vが鹿島を相手に駆け引きの優位性を表現するのは至難の業だ。鹿島のスタメンを見れば、昨年来日して清水に加入したマテウス・ブエノを除けば、全員がJ1で100試合以上の経歴を重ねている。それに対し東京Vで3ケタに到達しているのは染野一人。実戦経験の積み重ねや環境が駆け引きの素地になることを思えば、その差異で鹿島が勝利を手にしたのは必然だったかもしれない。
振り返れば、読売クラブを前身とする東京Vは、テクニックと駆け引きで「別世界」を築き上げてきた。まだ大半のチームを学校の先生が導いてきた現場でルールは金科玉条だった。しかし読売クラブでは早くから「ルールは味方につけるもの」という解釈が共有されてきた。もちろんVARのない時代である。レフェリーに見つからなければ、それはファウルではない。
草創期に圧倒的な駆け引きとテクニックでチームを牽引したのは、日系二世の与那城ジョージだった。当時コーチとして在籍していた千野徹が教えてくれた。
「ある時、ヒザ程度の高さの浮き球を、わざと手で止めた。そして相手がハンドをアピールした瞬間に一気にスピードアップしました」
チーム内の鳥かごでは鬼が代わらなかった。奪われた瞬間こそ奪い返すチャンスなのが、共通認識だったからだという。
1984年に二冠をもたらしたドイツ人のルディ・グーテンドルフでさえもが、狡猾な伝統を一層増幅させた。
「ファウルをされたら、まずレフェリーを囲んでボールを隠せ。少しずらして、そこからすぐに始めるんだ」
「必ず相手GKのパンツを掴め。怒って手を出したら大袈裟に痛がるんだ。PKになる」
国内のレフェリー間では「読売クラブの試合を裁けたら一人前」と言われていたそうだ。
Jリーグ草創期に来日した助っ人選手たちは口々に「マリーシア(ずる賢さ)が足りない」と指摘したが、その点で東京V育ちの選手たちは良くも悪くも狡猾さを相対的に深く理解していた。テクニックはもちろんだが、そのテクニックの活かし方でも一歩先んじていた。
かつて東京Vで10年間アカデミーの指導をしてきた菅澤大我(現FC町田ゼルビア・アカデミーダイレクター)は話していた。
「実はヴェルディを離れて指導者として凄く成長できたと思うんです。東京Vの選手たちは理屈なしに上手かったし、あとから振り返ればだいぶ説明を端折っても大丈夫だった。でも次に名古屋へ行ってみて、かみ砕いて丁寧に説明しなければいけなくなった。それでだいぶ合理的になれたと思います」
読売クラブでユース一期生だった小見幸隆が加入して最も驚いたのが、自分以上のサッカー小僧がいたことだったという。
「上手くなきゃダメ。そこは絶対」(菅澤)という環境で技と駆け引きを身につけ、早熟で小賢しく、また太々しく相手を翻弄していく。そんなタイプが次々に育ってくるのが、東京Vの伝統だった。
女子も合わせて俯瞰すれば、依然としてヴェルディには卓越した育成力がある。ただし時代とともに「別世界」の垣根は外れ、尖った特異性は薄れつつある。
城福監督は引き続きキャリアの浅い選手たちに熱く冷徹なファイトを求めていくはずだが、それを現有戦力で理想に近づけるのは極めて難易度の高い挑戦になりそうである。

加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。






















