日本が目指すべきはノルウェー代表 海外指導者が力説…W杯の結果は「マイナスに考える必要ない」

ザンクトペルテンに在籍するモラス雅輝氏
ワールドカップを終えて1か月近くが経つ。日本国内では「また決勝トーナメント1回戦の壁を越えられなかった」という厳しい声も少なくなかった。しかし、その評価は本当に妥当なのだろうか。
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浦和レッズとヴィッセル神戸でアシスタントコーチを務め、オーストリアを中心に20年以上の指導者歴を持ち、現在オーストリア2部ザンクトペルテンでテクニカルダイレクター、育成ダイレクター、U18監督と様々なタスクを兼任しているモラス雅輝と考察してみた。
「もちろん日本は決勝トーナメント1回戦で敗れましたし、『またここで終わった』という議論になるのは分かります。でも、ワールドカップって短期決戦ですし、組み合わせの影響もすごく大きいんですよ。例えば僕のいるオーストリアはグループリーグでアルゼンチンに負けて、決勝トーナメント1回戦でスペインに屈しました。結果でいえば決勝トーナメント1回戦敗退。でも優勝国と準優勝国に負けたと考えれば、評価軸は変わってくる。今回日本はブラジル相手に競った試合をしたという点は、前進ととらえることもできるはず。それにスウェーデン戦もオランダ戦もとてもいいサッカーができていたと思います。全体としてマイナスに考える必要はないと思っています。日本サッカーが着実に発展してきている事実は変わらないですし、その流れは間違いなく続いています」
日本では大会後、森保一監督への批判も少なくない。だが、モラスは「結果だけで評価すべきではない」と考えている。ワールドカップでは、わずかな組み合わせや試合展開が運命を左右する。それこそ、もし同じ組み合わせで大会をもう一度やれば、日本がもっと勝ち上がる可能性もあれば、スイスやノルウェーがもっと早く敗退する可能性だってあるわけだ。モラスも「それは間違いなくあると思います」と同意して、日本サッカーが高く評価されるべきポイントを口にした。
「やっぱりW杯のような大会ではゴールキーパー、センターバック、ボランチ、センターフォワード。いわゆるセンターポジションが本当に重要になります。その中でゴールキーパーに関しては、日本は今、本当に素晴らしい選手がいるじゃないですか。鈴木彩艶は、日本サッカーの歴史でも最高レベルのゴールキーパーです。大会ではキーパーの安定感がものすごく大事になりますから、日本にとっては大きな財産ですよね。しかもまだ成長は止まっていません」
では課題の一つとされる個の力に関してはどうだろう。確かに世界は広い。ノルウェー代表アーリング・ブラウト・ハーランドやイングランド代表ハリー・ケインのようなストライカーがいるかといわれたら、まだいない。
「じゃあ日本でハーランドを育てられるかと言われれば、それは取り組みでどうこうできるだけの話ではないはずです。どの国も苦労しているんです。ドイツだってそうだし、オーストリアも同じです。オーストリアでいうと中盤にはコンラード・ライマーやマルセル・ザビッツァーのような優れた選手がいますが、センターフォワードはなかなか世界トップレベルの選手がいない。そしてベスト8に残った国全てがこの問題をクリアできているわけではないんです」
世界との戦い方はそれぞれの国でアプローチが違う。日本にもそのベースが築かれている。となると選手がどのように成長していくのか、どのようにステップアップしていくのか、が重要になってくるが、「その点に関してノルウェー選手のキャリアは参考になるかもしれない」とモラスは冷静に語る。
「一つ忘れてはいけないのは、ノルウェー代表の選手たちは、ほぼ全員がノルウェーからオランダ、ベルギー、オーストリアを経由して、ドイツ、イングランドというステップアップを経験していることです」
怪物FWハーランドにしても、ノルウェーだけで世界最高峰の選手になったわけではないし、すぐにワールドクラスの選手になったわけではない。オーストリアのザルツブルクでは当初出場機会もない時期だってあった。ドイツのドルトムントを経て現在がある。
「サッカー界には良くも悪くもヒエラルキーがあります。だから若い才能が現実的な移籍をして、一歩ずつレベルを上げていける環境を作ることが大事なんです。聞こえは悪いかもしれませんが、育成の一部を海外に委ねるという考え方も必要になります」
日本も少しずつ、その流れはできつつある。シント=トロイデンをはじめ、日本企業がヨーロッパクラブの経営に関わるケースも増えてきた。
「そういうクラブが増えれば、今まで以上に日本人選手がヨーロッパへ挑戦できるようになります。もちろんJリーグの空洞化を心配する声もあるでしょう。でも日本には人口がありますし、下から次々と選手が育ってきます。将来性ある若手選手が早い段階でデビューできるチャンスが増えると考えたらポジティブな面だってあります。ベルギーもオーストリアもデンマークも、みんなそうやって成長してきました」
さらに、ノルウェーの躍進にはもう一つ理由があるという。
「実はちょっと前にノルウェーへ行ったんですが、一番驚いたのは環境整備でした。国中に冬でもサッカーができる屋内施設が整備されているんです。真冬でも雪の影響を受けずに、人工芝の上で練習ができる。これは本当に大きいですよね」
加えて、幼少期には一つの競技に絞らず、多様なスポーツを経験させるマルチスポーツ教育も浸透している。そしてクラブでは昨季CLで躍進を遂げたボデ・グリムトのように、監督やスポーツダイレクターが長年変わらず、同じ哲学を積み重ねているところが出てきている。
「環境、育成、クラブの継続性。そのすべてが噛み合って今のノルウェーがあります」
その話を踏まえたうえで、モラスは改めて日本サッカーに視線を向けた。
「今の日本サッカーは、これまで積み上げてきた発展にもっと自信を持っていいと思います。もっと誇りに思っていいんです。そして世界にはまだまだ学ぶべきことがたくさんある。学んで改善すべきところに取り組んでいく。オシムさんも似たようなことを話していましたよね。期待が大きすぎると、その反動で落胆も大きくなる。でも大事なのはステップ・バイ・ステップなんです」
世界との差は、確実に縮まっている。日本だけが世界で戦っているわけではない。優勝を目指しているわけではない。だからこそこれまで積み上げてきた道を信じ、一歩ずつ前へ進み続けたい。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。























