CL常連へ移籍も空回り「無理をしていた」 ”無茶”が裏目に…相次ぐ怪我で告げられた「いつ復帰できるんだ」

バーゼルの常本佳吾【写真:ZUMA Press/アフロ】
バーゼルの常本佳吾【写真:ZUMA Press/アフロ】

バーゼルでプレーする常本佳吾

 2023年7月、鹿島アントラーズからセルヴェットへ渡った常本佳吾は、すぐにレギュラーポジションを確保し、2024-25シーズンにはスイスの大手紙Blickから「スーパーリーグ最高の右サイドバック」と称される記事が出るほどに評価を高めていった。

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 守備対人の強さ、豊富な運動量、そしてビルドアップの正確性を兼ね備えた右サイドバックとしての立ち位置を確保した常本が、新天地に選んだのがFCバーゼルだった。21度のリーグ優勝回数を誇り、24-25シーズンにはリーグとスイスカップの国内2冠を達成した名門からは、数多くの選手がステップアップを果たしている。

 常本もそんな思いでクラブにやってきたが、待っていたのは順風満帆なシーズンではなかった。CL予選ではコペンハーゲンに敗れて本戦出場を逃し、ELに回ったものの、国内リーグでも安定感を欠いた。シーズン途中で監督交代にも踏み切ったものの、新監督シュテファン・リヒトシュタイナーになっても上昇気流には乗れず。最終的に5位に終わり、欧州カップ戦の出場権を逃すことになった。

 そんな昨季について、常本は次のように振り返っていた。

「2シーズン前にリーグもカップも優勝して、そのなかで自分が加入しました。ただシーズン途中での監督交代があったり、ヨーロッパリーグもうまくいかずとか、いろいろなことが重なってチームとして難しい時期が続いています。

 でもそれを変えていくのはピッチに立つ選手だと思います。残っているメンバーはまた新しくやっていこうという気持ちはあります。ただ、昨シーズンと同じ課題が今シーズンも出てしまうと、チームとしても前を向きづらくなります。何かきっかけになる得点のようなものが必要だと思います」

 その言葉には、自分自身もチームを変える側にいたいという強い意志がにじむ。しかし、その思いが強すぎたことが、結果的に昨シーズン、自分を苦しめることにもなった。筋肉系のトラブルが相次ぎ、さらに負傷を繰り返した。特に印象に残っているのが、ELのフライブルク戦だ。

「本当にプロになってからで一番ケガが多かったシーズンでした。相手に蹴られて仕方がないけがもありましたが、1回目と2回目のは筋肉系トラブルでした」

 実際、フライブルク戦では後半に負傷交代。バーゼル加入後から右サイドバックのレギュラーとして定着していただけに、その離脱はチームにとっても痛手だった。ただ、いま振り返れば、最初のケガからして「無理をしていた」という自覚があったという。

「チームからの期待もかなりあって、少なからずプレッシャーがあって、『8割の状態でもいいからプレーしてほしい』とか、『いつ復帰できるんだ』とか、と言われることもありました。それにプロとして自分もチームに応えたいという気持ちも強かった」

 チームが苦しいときだからこそ、自分がピッチに立って助けたい。その思いは、プロ選手として当然の責任感でもある。ただ、身体がその気持ちについてこなかった。

 常本がバーゼルにやってきたのは、明確な目標があったからだ。

「もともとはチャンピオンズリーグを目指して、このクラブに来ましたし、逃した後もヨーロッパリーグに出るためにこのチームに移籍してきたというのがあったので、自分自身もプレーしたい気持ちがすごく強かった。チームがうまくいっていなかったというのもあったから、なんとか貢献したいという思いも強く、それが結果的には裏目に出てしまいました」

 海外生活そのものが簡単ではないが、負傷しているときは、さらに難しい。ケガと日々向き合い、思うようにプレーできない時間を過ごす。そのすべてを、自分自身で乗り越えていかなければならない。

 できないわけではないときに自分にブレーキをかけるのは簡単なことではない。クラブからの期待を感じていればなおのこと。それだけに昨季を「ケガに泣かされたシーズン」という言葉で片付けるつもりはない。この経験を、常本は決してネガティブなものだけには捉えていない。

「今シーズンは、まずフルシーズンを通して戦い抜けるように、コンディション管理も含めてしっかりやっていきたいと思っています」

 身体の状態を見極めること。無理と責任感を混同しないこと。そして、長いシーズンを戦い抜くための準備をすること。それは、海外でプレーするなかで身につけた、大事な強さなのかもしれない。

「やっぱり日本じゃないんで、1人でというところはかなり難しくて。精神的にはすごく鍛えられました」

 今、常本は再び前を向いている。

「このクラブはセルヴェットとは違って、ヨーロッパ全体から本当に注目されています。周りの選手たちの移籍を見ても、それは強く感じます。このチームでいい結果を出し続ければ、必ず次のステップアップにつながるという実感があります。そこは自分がやっていくしかないですね」

 苦しいシーズンを経験したからこそ、その言葉には以前とは違う重みがある。ケガをしないことだけを目標にするのではない。チームを勝たせるためにピッチに立ち続ける。そして、バーゼルという欧州でも注目されるクラブで結果を残し、自らの価値をさらに高めていく。

 今季、常本佳吾が目指すのは、単なる復活ではない。「フルシーズンを戦い抜く」という土台の上に、もう一度、欧州へ向けて自分の価値を証明することだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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