目を奪われた”158センチ”のファイター 初の全国目前でまさか…あえて選んだ高校で課題克服へ

京都共栄高の笠原暖人【写真:安藤隆人】
京都共栄高の笠原暖人【写真:安藤隆人】

京都共栄高の2年生MF笠原暖人

 7月25日から福島県のJヴィレッジなどで開催されているインターハイ。今回はインターハイ出場を勝ち取れなかったチームで印象的だった選手を1人取り上げたい。

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 京都府予選決勝でプレミアリーグWESTに所属する東山高に0-1で敗れた京都共栄高は、冬の選手権予選でのライバル撃破を胸に、7月に神栖ワールドユースフットボール大会に出場した。その中で豊富な運動量と鋭い寄せからの守備、そして積極的なシュートでチームの攻守の要となっていた2年生MF笠原暖人のプレーに目を奪われた―。

 158cm。ピッチの中でも小さい部類に入るが、彼はフィジカルコンタクトや競り合いにも一切怯まず、果敢にチャレンジしていく。その姿が印象的だった。

 ポジションはボランチ。豊富な運動量を生かしてセカンドボールを回収し、ボールを受ければアジリティーを生かしたドリブルで前に運ぶ。一方で守備になると、スイッチが入ったように獰猛な目つきになり、相手に激しく食らいついていく。

 神栖ワールドユース3日目の松商学園戦。この試合で彼は守備面で大きく貢献すると、攻撃でも2ゴールを挙げ、4-2の勝利に貢献した。この2ゴールは、彼の能力の高さを示すものだった。

 1点目は左サイドでDFを背負いながらボールを受けると、クロスオーバーしてきた味方をうまく囮に使った。ヒールでボールを預けると見せかけて鋭く内側へターンし、そのままシュートを叩き込んだ。2点目はペナルティーエリア中央外でセカンドボールを拾い、そのまま右足のミドルシュートを突き刺した。

「ゴール前で怖い選手になることはずっと意識していました。常にゴールを狙って仕掛ける、シュートを思い切り打つ。この大会ではそれが少しですが出せていると思います」

 2日目の市立船橋戦でも、DF3人に囲まれながら鮮やかなダブルタッチからの股抜きで密集地帯をすり抜け、GKとの1対1を制して1ゴールを挙げている。だが、その活躍に話を向けると、「まだ僕は守備で貢献できていないんです」と表情を曇らせた。

「市船戦、せっかくいい形で1点を取ったのに、同点弾は僕のせいで決められたんです(結果は1-1)。インハイ予選決勝の東山戦でも僕のせいで失点をして……(0-1の敗戦)。もっと僕が力をつけないといけないんです」

 市船戦ではロングボールに対し、競り合いで先に飛んでしまい、空中のボールに届かず後逸。それを相手に拾われ、最後はGKとの1対1から同点ゴールを決められた。

 そして、彼の脳裏に今も残っているのが東山戦の失点シーンだ。プレミアリーグ所属チームを相手に試合終了間際まで0-0。白熱した展開の中、延長戦突入かと思われた瞬間、笠原にとって悪夢の時間が待っていた。

 相手GKがボールをキャッチし、ハーフラインを越える大きなパントキックを送り込んだ。高々と舞い上がったボールに対し、笠原は相手の2人の選手が競ろうとする姿を見て、その場に止まってしまった。次の瞬間、2人はボールに触ることができず、彼の目の前で大きくバウンドした。

 慌てて回収しようとしたが、戻りながらボールに向かってきた相手MFとの競り合いで後手に回り、ボールは2人の頭上を越えてDFラインの前のスペースへ。そこに走り込んでいたFW上田直史に胸で収められた。

 シュートを打たせまいとプレスバックするも届かず、上田にペナルティーエリア外から豪快な左足ミドルを叩き込まれた。これが決勝点となり、京都共栄の初の全国出場は叶わなかった。

「東山戦は僕のところでボールをワンバウンドさせてしまって、そこからやられてしまった。あそこは絶対に競らないといけないところでしたし、僕はずっとそこを意識してやってきた。そこを磨くためにここに来たと言っても過言ではなかったので、本当に悔しかった。市船戦でも飛ぶタイミングを間違えてしまったし、僕の甘さがそのまま失点につながった。僕がしっかりしていたら2試合とも勝つことができた」

 この言葉にこそ、彼のプレーに対する矜持を感じた。

 前述した通り、彼の身長は158cmと小さい部類に入る。小柄な選手はどうしても競り合いやフィジカルコンタクトで勝負するよりも、相手との接触を避けるために俊敏性を磨いたり、予測や予備動作を鍛えたりすることが多い。もちろん、それは悪いことではない。アジリティーや予測を大きな武器にしている選手も数多くいる。

 だが、サッカーはコンタクトスポーツであり、球際や競り合いを完全に避けることはできない。

 大阪出身の彼はIRIS生駒ジュニア、ジュニアユースで足元の技術やアジリティーを磨く一方、球際や競り合いにも強くこだわってきた。

「ハイプレスのサッカーが好きで、僕も試合中に走り回るタイプなのですが、プレスを成功させるためには、やはりヘッドと球際の競り合いが強くならないといけないと感じて、意識的に取り組んでいました。なので、高校選びも2人の兄が個人技を磨ける中央学院高に進んだのですが、僕は別の、球際や競り合いを鍛えられる場所に行きたいと思っていました。練習参加をきっかけに京都共栄のことを知って、プレー強度の高さを感じたので、ここで足りないものを鍛えようと思って来ました」

 明確な個人目標を持って進路を決めたからこそ、入学してからも「球際」と「競り合い」を大事なこだわりとしてプレーし続けてきた。

 この2つの失点の話を聞いて筆者が感じたのは、彼がミスをしたとしても恐れることなく、次のチャレンジに目を向けようとする強い意思だった。

 競り合いでかぶってしまったり、競り負けたりする経験を重ねれば、どうしても競り合いを避けたり、挑まなくなったりしてしまうこともある。だが、彼はそこで折れることなく、「もっと鍛えよう」というマインドで前に進んでいる。それは決して簡単なことではない。

「中学の時よりは間違いなくボールに対する反応が速くなったし、自然と体が動いて勢いよく相手に当たれるようになったと思います。成長は実感しているからこそ、京都橘や東山を倒して全国に行きたいという気持ちは日に日に強くなっています。そのためには僕がもっと強くならないといけない。どうしても『小さいから』と言われてしまうかもしれませんが、絶対に気持ちで負けたくないんです」

 負けたくない。それは相手にも、自分にも。

 158cmというサイズを言い訳にするどころか、だからこそ競り合いから逃げず、球際に飛び込んでいく。笠原はブレない信念を胸に、京都共栄の新しい歴史を塗り替えるべく、熱い夏を過ごしている。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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