プロから言われた「君、ずっと速いね」 識者も感じた”只者ではない”…同校初のJリーガー誕生なるか

愛知県の豊川高MF大下蒼生
7月25日から福島県のJヴィレッジなどで開催されるインターハイ。全国の予選を勝ち抜いた51校が日本一を懸けて凌ぎを削る大会に向けて注目選手をピックアップしていきたい。
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今回は創部69年目で悲願の全国大会初出場を手にした愛知県の豊川高のスピードアタッカー・MF大下蒼生(あおい)について。左右のサイドでずば抜けたスピードと緩急のあるドリブルを武器とする彼は、すでに複数のJクラブの練習に参加をするなど、Jクラブのスカウトが熱視線を送っている今大会で注目すべきタレントの1人だ。
大下のプレーを最初に見たのは一昨年のことだった。1年生レギュラーとして主軸となっていた彼のドリブル、突破からのクロスやパスを見て、「ただスピードがあるだけじゃないな」と感じた。
ギュンと音を立てて加速して行くのではなく、静かに加速していく。急発進もスプリントしてから加速度を上げて行くときも、身体がブレないし、滑らかに足が出てくるから『静かな加速』をすることができる。
それだけではない。スッと減速して、フェイントを入れながら急発進したり、トップスピードからぴたりと止まって次のプレーに移行したりすることができる。
ひと目見て只者ではないことはすぐに分かった。チームを率いる長谷川大監督も中学時代から大下の才能に惚れ込んで熱心に誘い、入学してからは成長するためのエッセンスを注入し続けた。
「蒼生は一言で言えば『高級車』。スピードが出ているのに操縦席に乗っている蒼生自身はおそらくゆっくり景色が見えていると思う。スッと加速も停止もできて、スピードアップしていても周りがちゃんと見えている。彼は2つ、3つ先の信号まで見えているからこそ、相手や味方の動きを見ながら判断を変えたり、いろいろなアイデアが出たりする。その能力に対して、急がせない、柔らかさを消さないようにアプローチすることを意識しました」(長谷川監督)。
名将の教えを受けてメキメキと頭角を現した彼は最高学年を迎え、豊川の歴史を塗り替え、同校初のJリーガー誕生となるかどうかの期待も背負う存在となった。
「中学の時に全国優勝をした凄い人が監督として来るという話を聞いて、かなり興味を持ったし、愛知県で高校サッカーをやりたいなと思ったのでここにしました。本当にその選択は正解だったし、もっとここで成長できると思っています」
彼の出身は北中米W杯のピッチに立った菅原由勢の出身であるASラランジャ豊川。菅原のように名古屋グランパスU-18に進もうと思ったが、複数回練習参加をしても保留が続く中で、長谷川監督からラブコールを受けた。県外の強豪校からの話もあったが、最終的には指揮官の熱意に押された。
「中学時代までは性格的にあまり自分を出すと言うか、目立つことが好きじゃなかった。スピードは中学の時から武器でしたが、ボールを持ったら出来る自信はあっても、自分から積極的に呼び込むことはあまりしませんでした。でも高校に入ってからは長谷川監督に『自分から呼び込め』と何度も言われましたし、動き出しの部分などを教えてもらいました。そこから徐々に自分から受ける回数が増えて、よりいい状態で仕掛けられたり、流れの中からチャンスに関われたりするようになりました」
エースとしての自覚が一気に芽生えたのは昨年のインターハイ予選準々決勝の大同大大同高戦だった。チャンスに多く絡むことができたが、フィニッシュに正確性を欠いて0-1の敗戦。
「豊川は僕を信じてくれていると感じることが多くて、監督コーチもそうだし、先輩や同級生たちも自分が欲しいタイミングでボールを出してくれたり、僕の動きを見てくれていたりする。でも、そこに甘えてしまっていた。プロや全国を目指すなら、そこで自分が責任感を持ってプレーしないといけないと思ったんです」
そこから彼の成長曲線はさらに上向きになっていく。今年4月に右手首を骨折し、インターハイ予選直前まで離脱し、予選も時間制限の中でプレーすることになったが、「離脱中に応援する側に回って、試合に出られない人の気持ちだったり、それでも声を出して応援してくれる熱量だったりを感じて、より『試合に出られない人が納得のいくようなプレーをしないといけない』と強く思いました」と、復帰をしてからはよりチームのためにプレーする意識が強くなった。
東邦との予選決勝では1-0で迎えた後半23分にカウンターからシュートを放ち、それが相手のオウンゴールを誘発し、勝負を決める2点目を引き出した。そして、その後はJ2の2クラブの練習に参加をし、そこでも持ち味を発揮している。
「プロの選手に『君、ずっと速いね。1人抜いても、2人目、3人目も抜けるね』と言われて、自分の武器により自信が持てました。だからこそ、もっと周りを見たり、判断を良くしたりして、ドリブルで仕掛けるところ、ダイレクトなどシンプルなプレーをするところの質を上げていきたいと思っています」
進路を決める前に初の全国の舞台が待っている。そこで自分の名前と豊川の名前を轟かせるために、彼は今を大事にして自己研鑽を続けている。
「僕らは無名高なので、前評判を覆したい。(ラランジャの先輩の)菅原選手も愛知でプレーをして、世界の舞台まで駆け上がっていった。初戦のオランダ戦なんかは菅原選手が入っていい流れになって、鎌田大地選手の同点ゴールが生まれた。自信を持って、コツコツと積み重ねていけば、未来は開かれると思うので、まずはインターハイで自分の未来をもっと切り開いていきたいです」
目標は高く、そして努力は細かく。自らの名を知らしめる大舞台がいよいよやってくる。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。



















