197cm逸材GKの過去「初心者なのか」 急成長の壁越えインハイへ「無理だよと思わせるセーブを」

昌平高3年・土渕璃久「ようやくこの身体を扱えるようになった」
7月25日から福島県のJヴィレッジなどで開催されるインターハイ。全国の予選を勝ち抜いた51校が日本一を懸けて凌ぎを削る大会に向けて注目選手をピックアップしていきたい。今回は埼玉県代表として出場する昌平高から。197センチという圧倒的な体格を誇るプロ注目の3年生GK土渕璃久はいま、インターハイからの復帰に向けて必死にリハビリに取り組んでいる。圧倒的な魅力であるサイズの裏側には、自分の身体操作と感覚にアジャストするまでの苦悩があった。
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インターハイ埼玉県予選準々決勝・東京成徳大深谷戦の取材で昌平高校グラウンドを訪れると、ピッチの外で仲間を見守る土渕の姿があった。予選前の練習で手首を骨折し、翌日に手術を控えていたタイミングだった。
「インハイに向けてずっと練習をしてきたので本当に悔しいですが、頑張れば本戦には間に合うと言われたので、予選は仲間に託してリハビリに専念しようと思っています」
悔しさをにじませながらも、「これまでの方が本当にしんどかったので、今はかなり前向きです」と笑顔を見せた。これまでの苦悩を尋ねると、そこには急激な身長の伸びによって、自身の身体に適応できなかった苦しみがあった。
「小学校卒業時は170センチだったのですが、中学3年間で16センチ伸びたんです。一気に伸びたことで、自分の身体なのに自分じゃないような感覚になっていきました。例えば他のGKの動きを見て、自分も同じ動きをしているはずなのにうまくできなかったり、同じスピードで身体を動かしているつもりでも、実際はワンテンポ遅れてしまったり。特に中1の時は『初心者なのか?』と思うほどシュートも止められなくて、自信を失いかけました」
頭では理解していても、細かいステップが刻めず、思うように手足が動かない。周囲のGKが俊敏にプレーする一方で、自分だけが取り残されていくような感覚だった。
それでも毎日必死に練習へ食らいつき、基礎を身体に染み込ませていった。しかし追い打ちをかけるように、中学3年時には両肩を脱臼。悩んだ末に手術を決断した。
「中3の1年間は正直、全部捨てる気持ちで手術をしました。しっかり治して筋トレを積めば、1年後には高校1年生として万全の状態で再スタートできると思ったんです。もちろん『この先やっていけるのかな』という不安はかなりありましたが、高校でもう一度成長することを目標に決めて取り組みました」
焦りや不安を抑え、未来への希望に懸けた。FC LAVIDAから昌平へ進学後も苦難は続く。高校1年時も身長は伸び続け、身体づくりが思うように進まなかった。高校入学時から約11センチ伸び、現在は197センチに到達した。
「高2になってようやく筋力のベースができて、そこからどんどん自分がイメージするプレーができるようになったんです」
苦難の時期を経て、この圧倒的なサイズは土渕の最大の武器となった。安定したハイボール処理に加え、バネと長い手足を生かした広範囲のセービング、さらに1対1では上体を起こしたまま細かくステップを踏み、間合いを詰めながら相手を見極めて対応するなど、プレーの引き出しは着実に増えている。
今年は不動の守護神の座をつかみ、高円宮杯プレミアリーグEASTでも負傷するまで開幕から9試合連続フル出場。確かな手応えを得た状態で、復帰への歩みを進めている。
「ようやくこの身体を扱えるようになってきたからこそ、これからはステップやキャッチ、ポジショニング、足元の技術など細かい部分までこだわって練習を続ければ、もっともっと良くなると思っています」
やるべきことを整理し、それに真っすぐ向き合う大切さは、これまでの経験で誰よりも理解している。まだまだ未完成だからこそ努力を続ける。その先に大きな伸びしろがあることも、自分自身が信じている。
「夏にはもっとチームを勝たせられるGKになって、『それを止められたらもう無理だよ』と思わせるようなセーブで相手の士気を下げたいです。理想はクルトワやドンナルンマ。『このGKがいたから勝てなかった』と言われるようなGKになります」
この思いがある限り、土渕の未来はさらに大きく開けていく。大型守護神の成長曲線は、ここからさらに加速度を増していくはずだ。夏を彩る主役の一人となる準備は、すでに整っている。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。



















