耳に届いた心無い声「気になっていた」 アジア杯で変化…鈴木彩艶が冷静でいられる理由

Mission26のインタビューに応じた鈴木彩艶
Mission26のインタビューに応じた鈴木彩艶

DAZN「Mission26」のインタビューで語った

 イタリア・セリエAのパルマで守護神として君臨する日本代表GK鈴木彩艶。北中米ワールドカップ(W杯)シーズンでは負傷離脱も経験した。190センチの恵まれた体躯と圧倒的なキック精度を武器にする23歳は、今、何を思いピッチに立っているのか。DAZN「Mission26」のインタビュー取材で本音を語った。(取材=DAZN、構成=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞/全3回の1回目)

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 鈴木彩艶の辞書に、「停滞」という二文字は存在しない。

 イタリアの古都パルマ。冷徹なまでの自己分析と、静かに燃え盛る野心を胸に、鈴木彩艶は再びゴールマウスへと帰ってきた。2025年11月、ACミラン相手に一歩も引かぬ死闘を演じていた最中、不運極まるアクシデントが襲った。左手を踏まれ、負った複雑骨折。ゴールキーパーにとって命とも言える指の自由を奪われるという絶望的な状況に陥った。全治は3〜4か月。鈴木は日本で手術を受けることに決めた。

「ミラン戦で怪我をして、試合をやっている時は脱臼したのか突き指したのかな……という風に思っていたので、痛かったですけど最後までプレーしました。終わった後に骨折していると分かりました。でも思いのほか、そこまで落ち込まなかったというのが正直なところです。自分でも何でかわからないですけど。手の怪我というのもあったので、できることいっぱいあるなという風に思いました」

 時計が止まったと誰もが思った。だが、鈴木自身は一瞬たりとも折れてはいなかった。非情な診断を下されたその瞬間から、視線はすでに「復帰後の自分」を捉えていた。落胆に暮れる暇があるなら、体を鍛えればいい。指が動かないなら、脚を、体幹を、思考を……研ぎ澄ませばいい。凄まじいまでの合理性とポジティブな思考。緊急帰国して手術からわずか3日後、すでにトレーニング場に現れた。「もう早く治してやろうという前向きな気持ちしかなかった」。その執念が、驚異的な回復力となって実を結んだ。

 初めて臨む4か月のリハビリ。左手の握力は8キロにまで低下した。右手の握力は60〜70キロで、途方な道のりに思えた。だが、もう一度見つめ直した足元の技術、片手でのハンドリング、脳や目のトレーニングとやれることを徹底的にやりこんだ。

 迎えた今年3月のセリエA第29節トリノ戦。先発出場し、約4か月ぶりの実戦復帰となった。スタジアムに漂う緊張感、ゴールネットを揺らそうと迫りくる敵陣の殺気。すべてが、鈴木にとって至高だった。

「初めて長い間試合に出ていないというか、怪我をして離脱しました。久々にピッチに立った時は、いつもと違った感覚がありました。説明するのが難しいですけど、緊張ももちろんしましたし、違った感覚がありました。でも、やることはしっかりと練習の中で取り組んできたので、不安は全くなかったです」

 結果は4失点を喫しての敗戦。GKというポジションの宿命として、素晴らしいセーブを連発しても、スコアシートに刻まれた数字がすべて。イタリアのメディアやファンは容赦ない批判を浴びせることもある。だが、鈴木は“外の雑音”を、まるで雨を避ける軒先のように涼やかに聞き流すという。

「(批判が)目に入ることもありますけど、外からの評価はそこまで気にしていないです。『違うこと言ってるな』と軽く思うこともあれば、『確かにそうだな』と思うこともあります。アジアカップの時なんかはたくさんのことを言われて、そこは多少自分としては気になっている部分はあったのですが、そこの経験を経て、冷静に自分自身を感情コントロールしながらできているかなと思います」

「どんな意見を言われようが立ち返れる」

 2024年1月のアジアカップ。当時21歳でいきなり日本代表の正GKという重責を担い、期待と批判の激流を浴びた。もちろん鈴木だけが悪かったわけではない。だが、日本のゴールマウスを任された若き守護神に届いた心無き声。批判との向き合い方を学んだ。

「メンタルを保つという意味でも、自分としては立ち返る位置があることが結構大事だと思っています。どんなプレーをしてどんな試合をしたとしても、どういうプレーをするべきかという、自分の中でどういうところに立ち返るかというのを持っていれば、どんな意見を言われようが立ち返れる」

 どんな荒波に揉まれようとも、沈まないための指針を得た。その「立ち返る場所」こそが、日々の地道な練習であり、極限まで突き詰められた準備。自分を信じる根拠を、誰よりも積み上げてきた自負があるからこそ、揺るがない。

 今、目の前には北中米W杯が待つ。かつてはただ「目の前のボールを止める」ことに必死だった少年は、今、組織の要として牽引する風格すらまとい始めている。

「前はとにかく『ゴールを守る』という気持ちで臨んでたのですが、今はゴールを守るキーパーとしての最大の仕事はもちろん、『チームに安定感を与える』という部分が加わったなというのは実感しています。守備も攻撃も含めて、いかに安定感を与えて90分間通してやっていくか。W杯は近づいてきましたし、素晴らしい大会というのは理解しています。でも、自分としては冷静に。今の立ち位置を見ながらできている部分はあります」

 パルマの守護神から、世界の守護神へ。進化の過程にあるのは、血の滲むようなリハビリと、一切の妥協を許さないプロ意識。

「目の前の試合、目の前の試合というのはみんな人生を懸けてやっていると思うので、そこを大事にしたいですね」

 逆境を、自らを再生させるための最高のエネルギーへと変換した。鈴木彩艶が守るゴールマウスには、綻びはない。支えてくれた人々への感謝をその巨大な両手に宿し、彼は再び世界へと飛翔する。背番号1、その戦いはここからが本番だ。

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