古巣からブーイングに笑顔「ようやく」 同期から刺激も…日本代表入りは「かなり遠い目標」

東京Vの林尚輝【写真:徳原隆元】
東京Vの林尚輝【写真:徳原隆元】

東京VのDF林尚輝が古巣・鹿島戦を振り返った

 百年構想リーグで首位を走る王者・鹿島アントラーズに、東京ヴェルディが初めて90分間で黒星をつけた。先制点を許しながらも、怒濤の連続ゴールで2-1の逆転勝ちをもぎ取った一戦で最終ラインを統率した林尚輝が、古巣・鹿島のファン・サポーターから浴びせられたブーイングを笑顔で歓迎した理由に迫った。(取材・文=藤江直人)

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 前半のキックオフを直前に控えたロッカールームに、ブーイングがはっきりと聞こえてきた。

 ホームの味の素スタジアムに首位の鹿島アントラーズを迎えた、4月29日のJ1百年構想リーグ地域リーグラウンドEASTグループ第13節。東京ヴェルディの先発メンバーがゴールキーパー(GK)の長沢祐弥から紹介されはじめて3人目、センターバック(CB)の林尚輝の名前がアナウンスされた直後だった。

「ブーイングされていましたよね。キックオフ前だけでなく、試合中に足を痛めたときも」

 プロになって6シーズン目の戦いに臨んでいる27歳の林が、敵地のゴール裏スタンドをチームカラーのアントラーズレッドに染めた、古巣・鹿島のファン・サポーターを発信源とするブーイングを笑顔で歓迎した。

「ようやくブーイングされる選手になれた、と言えばいいんですかね。鹿島のファン・サポーターはそれこそ自チームの選手に対しても厳しい声がけをしますけど、そこには愛が込められているとずっと思ってきました。その意味で僕自身、何となく試合に出ているよりも、逆にブーイングされるくらいの選手になれたと思いました」

 大阪府堺市で生まれ育った林は、島根県の強豪・立正大学淞南高校から大阪体育大学をへて、2021シーズンに鹿島へ加入。かつて興梠慎三や昌子源、植田直通が鹿島でのルーキーイヤーに託された「23番」とともに、即戦力の期待を背負ってプロの世界へ飛び込んだ。加入時にはこんなコメントを残している。

「(23番をつけた)先輩たちと同じように、いずれは日本を代表する選手になりたい」

 しかし、怪我の連鎖もあって思うように結果を残せない。リーグ戦では2シーズンでわずか7試合、プレータイムの合計も463分に終わったなかで、2023シーズンには当時J2のヴェルディへ期限付き移籍した。

 ブーイングされる対象にすらなれなかった、と記憶している鹿島時代を林はこう振り返る。

「僕自身、鹿島では結果を残せなかった。怪我が多い点は、いまも引き続き自分の課題でもある」

 ヴェルディが実に16年ぶりにJ1へ復帰した2024シーズン。鹿島からの期限付き移籍を1年延長し、ヴェルディのJ1残留に貢献した一人となった林は、2025シーズンからは完全移籍へ移行している。

 期限付き移籍中だった2024シーズンは、林は鹿島とのすべての公式戦に出場できなかった。この間、ヴェルディはリーグ戦で鹿島と敵地で3-3と引き分け、ホームでは2-1と勝利している。

 昨シーズンのリーグ戦以降は、今年3月の百年構想リーグ第5節まで3連敗。この間のヴェルディは得点0、失点7を喫していて、林はホームに鹿島を迎えた昨シーズンの第37節で初めて古巣と対峙した。しかし、先発フル出場を果たすも、9シーズンぶり9度目のリーグ優勝を目前に控えた鹿島に0-1で屈していた。

 林個人としては2度目となる古巣・鹿島との対決は、前半19分にDF濃野公人に先制点を決められたヴェルディが同34分にFW熊取谷一星、同40分にはMF吉田泰授が怒濤の連続ゴールを決めて逆転。林が真ん中にすえられた3バックを中心に、粘り強い守備で後半の鹿島の反撃もはね返して白星をあげている。

「首位のチームだけあって、スカウティングや映像で確認していても本当に強いという印象でした」

 古巣の強さをこう振り返った林は、鹿島から個人的にあげた白星の価値にちょっとだけ声を弾ませた。鹿島にとっては百年構想リーグで3敗目にして、90分間で喫した初めての黒星となった。

「鹿島は本当に特別なチームですし、そのチームを相手にした自分が何をどれだけできるか、というのは今後のサッカー人生にも影響を与えると思ってきました。正直、外から見るとスタッツなどでかなり差があると思われているはずですけど、こういう強い相手に結果を残していくなかで自分たちの評価も上げていけるので」

 後半17分にはリードを2点に広げる絶好のチャンスが訪れた。直接フリーキック(FK)のこぼれ球に、ペナルティーエリア内の左で素早く反応した林が右足を一閃。ミートを重視した分だけ威力にやや欠けたが、それでもゴール左を急襲した一撃は、森保ジャパンに名を連ねる早川友基がとっさに伸ばした右手に阻まれた。

「決まれば自信になったけど、しっかりと止められました。本当にさすがだなと思いました」

 思わず脱帽した早川は、2021シーズンに明治大学から鹿島に入団した同期生となる。明治大学から鹿島に加入した同期で、現在はスイス・バーゼルでプレーするDF常本圭吾とともに林が感謝の念を抱く存在となる。

「彼らのおかげで、自分の目標値というものがかなり引き上げられているんですよ。早川が日本代表の常連となり、常本が海外で活躍している状況のなかで、彼らと一緒に鹿島の一員になった自分としてもJリーグの舞台でシーズンを通して活躍しないわけにはいかない、という思いにさせられますよね」

 特に鹿島での活躍が認められ、昨年7月の東アジアE-1選手権で代表デビューした早川は、6月に開幕するワールドカップ北中米大会に臨む森保ジャパン入りが確実視されている。林はさらにこう続けた。

「いまの自分にとって、代表はかなり遠い目標と言っていいかもしれない。それでも、代表を目指さずして自分のキャリアを終わらせるわけにはいかないと、今シーズンは特に強く思っている。自分はあまり高すぎる目標を設定して、それをどんどん周囲に言っていくようなタイプではないけど、そういった目標をひとつ設けたときにさらに成長できるんじゃないか。彼らがそう思わせてくれるし、そういった面で本当に感謝しています」

 実はヴェルディへ完全移籍してから、鹿島のホーム、メルカリスタジアムでは一度もプレーしていない。敵地に乗り込んだ今年3月の百年構想リーグ第5節も、右足の怪我で戦線離脱を余儀なくされていた。

「ヴェルディに来てからかなりの時間がたっていますけど、怪我を含めてなかなかタイミングが合わない。いつかあのスタジアムのピッチに立って、しっかりと自分のプレーというものを出したい」

 次のチャンスは8月に開幕する新シーズン。そのときには敵地を埋めた鹿島のファン・サポーターから、さらに大音量のブーイングを浴びせられる光景を思い描きながら、林はヴェルディの最終ラインを支えていく。

(藤江直人 / Fujie Naoto)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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