主力移籍の穴…意識して「空回りしてしまった」 柏26歳の試行錯誤「自問自答するように」

久保藤次郎「小屋松くんが持っている個の打開力をレイソルでもっと出したいと」
柏レイソルのサイドアタッカー・久保藤次郎にとって今年は『試行錯誤の1年』となっている。
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百年構想リーグ第7節の浦和レッズ戦において、3-4-2-1の右ウイングバックに入った久保は、前半はサイドでボールを受けて積極果敢に縦にドリブルを仕掛けたり、カットインを狙ったり、個での打開力を発揮した。
すると後半は一転し、味方のスペースを空けるポジショニングやワンタッチプレー、ドリブルすると見せかけてのポゼッションなど、個というより周りとのコンビネーションを重視したプレースタイルに切り替えた。
1つの要素としては、後半15分に3バックの右センターバックに山之内佑成が入ったことで、山之内の前への推進力を活用する狙いがチームとして芽生えたことにある。
「1点リードされて、もう攻めるしかない状況での佑成だったので、彼のスプリントや攻撃能力の高さをどんどん活かそうと。ちょうど僕のサイドがレイソルベンチ側で、リカルド監督もベンチから『佑成を使え』とずっと言っていたので、そこは意識しました」
山之内は交代直後にカットンからシュートを放つと、ここから右サイドの攻撃が一気に活性化。久保も山之内の後方から駆け上がってくる“プラスワン”の動きを常に頭に入れたポジショニングを取り、彼を活用した数的優位を作っては、得意のドリブルやワンタッチプレーを組み入れて、リズムメイクをしていた。
1-1で迎えた後半37分には左CKのショートコーナーから始まったポゼッションに対し、逆サイドでバックステップをしながら幅を取ってからボールを受ける。受ける前に前を見ると、山之内が右ワイドの位置に張り出していることと、それによって引っ張り出された相手DFと中央のDFの間にスペースが生まれ、そこをFW瀬川祐輔が狙って斜めのランニングを仕掛けていることを把握すると、山之内に出すと見せかけて瀬川へ浮き球のスルーパス。
瀬川の落としに対し、山之内がそのまま平行に中央へ走り込んでスイッチする形で受けると、シュートまで持ち込むことはできなかったが、キープしてから再び久保に預けてからもう一度攻撃を組み立て直すなど、3人目が効果的に絡み、かつ連続性のある攻撃を見せた。
後半43分にはDFラインのパス回しから、山之内が相手自陣の右のハーフスペースに潜り込んでいった姿を見て、右ワイドで落ちながらパスを受けた。すぐに前向きにターンすると、自分が空けた右背後のスペースに走り込んだ山之内を見逃さずにロングスルーパス。
これを受けた山之内は縦突破からマイナスのクロス。これを中央でフリーの瀬川が狙うが、DFのブロックにあって枠を逸れた。
試合はそのまま1-1で終了し、PK戦の末に柏が勝利。後半、柏が見せたサッカーはボールが動き、複数の選手が連動していくダイナミックなアタッキングサッカーだった。そのなかでの久保の存在感は非常に光っていた。
「去年はある程度周りとの連係がよりうまくなったというか、洗練されてきて、それなりに結果を出すことができました。今年もそれを継続しつつ、例えば小屋松(知哉、名古屋グランパス)くんがいなくなったので、小屋松くんが持っている個の打開力をレイソルでもっと出したいと思って臨んだのですが、正直、少し空回りしてしまっていいスタートが切れなかった部分はあります」
試合後のミックスゾーン。久保の口から出てきたのは、今の自分のプレースタイルの方向性について試行錯誤しているという言葉だった。なぜそうなっているのかを聞くと、少し考えてから、まずここに至るまでの経緯を話してくれた。
「プロ入りして、藤枝(MYFC)、名古屋、(サガン)鳥栖のときは攻撃の際にどう崩すかはもちろん考えるのですが、レイソルに来て、ヨシ(小泉佳穂)くんなど周りにゲームをコントロールできる選手と組むと、僕が仕掛けると逆に浮いてしまう瞬間があった。
チーム戦術もリカルド監督のサッカーは相手を揺さぶって、揺さぶって崩していくので、無理な状況から強引に突破を仕掛けるより、そういうときはボールを動かしてリズムを変えたり、攻める場所を変えたりしようというチームの共通理解がある。
そこから周りとのコンビネーションで崩していくプレーをより意識するようになって、仕掛けるときも『厳しい』と思ったら、ドリブルをやめてパスを選択したり、プレー判断を変えたりと、プレーキャンセルを入れるようになりました」
柏に来て、自分の絶対的な武器だった突破力にばかりこだわるのではなく、周りと連係しながらいくつもの引き出しを持って、その最適解を選びながらプレーし、“ここぞ”という場面でドリブルを仕掛けるようにプレーバランスを変えた。
「もちろんドリブルという武器を捨てたわけではありません。でも、裏を返せば、相手のレベルがどんどん上がってくるにつれて、ドリブルだけでは通用しなくなってきて、コンビネーションプレーに切り替えてきたから、なんとかここまで来ることができていると思っています」
プロサッカー選手として、J1のトップレベルで生き残っていくために、久保は何度も壁にぶち当たりながらも必死で自分を磨きながら、プレーの幅を広げてきた。ドリブルもコンビネーションプレーもできるようになった今、新たにトライしているのが“ドリブル成功率”の向上だった。
「今年に入って『連係では崩せるようになったけど、じゃあ1対1になったときにどうなんだ』と自問自答するようになった。確かに僕は『周りを使う』という技を覚えて進化をしたからこそ、今ここにいることができている。もちろん、それは別に悪いことじゃないけど、いざ振り返ってみると、もっとドリブルを磨きたいと思うようになったんです」
そのお手本となっているのが、小屋松だった。
「あの人は本当に大人のプレーをするんです。仕掛けるときに『あ、これは無理だ』と思ったら仕掛けるのをやめるんです。その判断の質がすさまじくて、『10回仕掛けて、3回行ければいい』じゃなくて、『3回仕掛けて、3回行きたい』という人なんですよ。無謀な負けゲームはしないんです。それをすることによってチームとしては悪い形でボールは失わないし、攻撃をもう一度やり直せるというメリットが生まれる。
でも、俺はまだ逆に前へ前へとなってしまう。もちろんそれも悪いことではないと思うのですが、もっと駆け引きとプレーキャンセルを入れて、周りとコンビネーションを組んでいきながら、1対1になったときに確実に剥がせる選手になっていきたい。これが今、僕が取り組んでいることです」
“進化をし続ける”。それは常に自分と対話し、自分ができることを広げるだけでなく、ときには整理して、もう一度原点を見つめ直しながら、やるべきことを見出して前に進んでいくという、細かくて地道な作業の繰り返しである。久保はプロ6年目を迎えた今年も、向上心に溢れたこの姿勢を持って、柏の攻撃のキーマンとして一歩ずつ着実に成長をし続ける。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。


















