J1名門が復活した理由「公平に」 強化部長が明かす…オシム監督が重視した「水を運ぶ選手」

2020年から東京ヴェルディの強化部長を務める江尻篤彦氏がインタビューに応じた【写真:徳原隆元】
2020年から東京ヴェルディの強化部長を務める江尻篤彦氏がインタビューに応じた【写真:徳原隆元】

江尻篤彦氏は2020年から東京ヴェルディの強化部長を務める

 2026年8月のシーズン移行前の特別大会、J1百年構想リーグEASTで、まずまずのスタートを切っているのが東京ヴェルディだ。

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 昨シーズン終了後に絶対的主力だった谷口栄斗(川崎フロンターレ)、試合に絡んでいた食野壮磨(栃木SC)、唐山翔自(ガンバ大阪)らが外に出たこともあり、開幕前は「厳しいシーズンになるのではないか」という見方も根強かった。

 けれども、蓋を開けてみると、開幕から3戦無敗。4戦目の横浜F・マリノス、5戦目の鹿島アントラーズには苦杯を喫したものの、2025年J1王者・鹿島や2025年FIFAクラブワールドカップ参戦の浦和レッズに食らいついているのだ。

 城福浩監督体制5年目を迎えるチームはどのように変化しているのか。かつての名門はいかにして復活を遂げたのか。2020年から強化部長の要職を務める江尻篤彦氏に今回、単独インタビューを実施。チームの現状や課題、今後の展望はもちろんのこと、彼自身の紆余曲折や転機などについても深掘りした。(取材日:2026年3月4日、取材・文=元川悦子/全4回の1回目)

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「2022年途中に城福監督を招聘した時から、アカデミーから上がってくる将来性のある若手と大卒選手を融合させ、現代サッカーに必要なインテンシティを植え付けていこうという狙いはありました。

 その方向性を継続しながらチームを強化し、2024年にJ1に復帰。今季で3シーズン目を迎えますが、昨年夏に木村勇大(名古屋)、綱島悠斗(アントワープ)、翁長聖(長崎)、千田海斗(鹿島)の4人が移籍。この冬にも谷口が去ったことで、この百年構想リーグをどう戦うべきかという課題に我々は直面したんです。

 そこで考えたのが、現有戦力の底上げを第一に進めていくこと。26-27シーズンに向けて、今いる選手たちをしっかり伸ばし、戦力見極めを行うことがすごく重要だと再確認したんです。

 そのうえで、走行距離、スプリント回数、1分割走、ウォーキング率などで他チームを上回っていくことを都城キャンプから目指してきました。最後まで落ちることなく粘り強く戦える基盤を作るべく取り組みましたが、それが今季開幕からうまく出ている。水戸戦以外は後半30分以降に得点を取れていますし、一応の手ごたえを感じています」

 江尻強化部長が前向きなコメントを口にする通り、今季のヴェルディは開幕前の低評価を覆す善戦を見せている。昨季は総得点23というリーグワースト記録を作ったが、百年構想リーグ突入後6戦のゴール数は10。エースFW染野唯月が3ゴール、昨夏モンテディオ山形から赴いたDF吉田泰授が2得点を挙げ、アカデミー育ちの松橋優安、移籍2年目の福田湧矢らもゴールを奪っている。そのあたりは目に見える前進と言っていい。

「ペナルティエリアに人をかけるということができているのかなと感じます。チャンスクリエイト数やシュート本数が著しく増えたわけではないし、攻撃に関するデータも今のところはJ1下位なんですが、得点確率は上がっている。質の向上は評価していい部分ですね。もちろん現状にあぐらをかいてはいられないですけど、今のヴェルディは5人も6人も戦力を大胆に入れ替えることはできない。現有戦力の能力を最大限発揮させ、そういう中で点を取って勝ちに行くという戦いは実践できているのかなと感じます」と江尻強化部長は力を込める。

 キャプテン・森田晃樹や攻撃の主軸・齋藤功佑らがコンスタントにいい働きを見せているのは力強いが材料だが、10代の頃から高く評価されていた平川怜、鈴木海音、松橋らがここへきてポテンシャルを発揮しつつあるのも前向きな要素だろう。特にアカデミー出身の松橋の活躍はクラブ全体にとっての朗報ではないか。

「優安は藤田譲瑠チマ(ザンクトパウリ)、山本理仁(シントトロイデン)と同期で、ユースの頃は10番も背負っていました。が、トップに上げてからは思ったような結果を残せず、(SC)相模原や(レノファ)山口へレンタルに出したんです。武者修行を経て、2024年に戻ってきましたけど、最初は正直、難しいところがあった。キャンプの紅白戦にも出られず、攻撃的MFの序列的にもかなり低かったですからね。

『もう他に受け入れてくれるチームはないけど、お前どうする?』と本人にも伝えましたけど、あの時は目の色が全然違った。『もう腹をくくるしかない』という決意が感じられたし、本人も諦めずに献身的に取り組み続けた。だからこそ、今があると思います。

 昨季なんかもBチームにいる時が結構あって、紅白戦では対戦相手役をやることもありましたけど、そういう時でも絶対に手を抜かず、ひたむきにやっていました。今は少しケガをしてしまいましたが、どん底からレギュラーをつかみ取ったという意味で、彼はサクセスストーリーを地で行ったと思います」

 松橋のように頑張る選手が出てくるのも、『基準』を明確に示し続けた城福監督の毅然とした姿勢によるところが大だ。かつてFC東京やサンフレッチェ広島など数多くのチームを率いた百戦錬磨の指揮官は「ウチはお金をかけて選手を集めるのではなく、1人1人が120%で取り組んで成長してJ1で戦い抜くチーム」といった発言を口癖のようにしているが、『基準』を満たさない選手はどんなに知名度や実績があっても起用しない。逆に若く実績がなかったとしても、いいパフォーマンスを見せていれば必ずピッチに送り出す。フラットな競争環境を江尻強化部長は作りたかったのである。

「城福さんの素晴らしいところは『みんなを公平に見ているよ』というメッセージを常に送り続け、成長を促せる部分だと思うんです。僕がジェフユナイテッド千葉でコーチをしていた時の指揮官であるイビチャ・オシム監督もそうでした。正当に評価してもらえることが分かれば、みんなが自主的に努力するようになるし、いい方向に向かっていけるんです。

 オシムさんはよく『水を運ぶ選手』の重要性を口にしていましたけど、やっぱり身を粉にしてチームを支えられる人材が何人もいないといいチームにならない。今のウチはそういう献身性を持った選手が多くなってきたなという感覚もあります」

 20年前の千葉も有名選手がズラリと並んでいたわけではなかったが、巻誠一郎(解説者)や阿部勇樹(浦和ユース監督)、水野晃樹(岩手GM)、水本裕貴(長野U-18監督)らフレッシュな人材がグングン伸びていく集団だった。偉大なオシム監督から学んだことを、江尻強化部長は今のヴェルディのマネージメントに生かしているのである。(第2回に続く)

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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