強豪校→J1入団も…出場ゼロで「本当に苦しい」 実力不足を痛感「今より下に行かない」

湘南の松本果成「この1年間の苦労は本当に無駄じゃなかったんだと思えた」
3月11日に全日本学生選抜と、13日に全韓国学生選抜との2試合が行われたJFA/Jリーグポストユースマッチ。Jリーグで出場機会の少ない若手選手に実戦の機会を創出するために昨年発足したポストユースマッチは、今回、高卒ルーキーを中心に選出され、U-19の選抜チームになった。
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全日本学生選抜戦は強度の高さと技術を誇る相手に前半は押し込むも、後半は逆に守勢に回って0-1の敗戦。全韓国大学選抜戦は一転して激しい打ち合いになり、前半はMF中積爲(ガンバ大阪)とFW吉田湊海(鹿島アントラーズ)のゴールで2点のリードを奪うが、後半追いつかれた。それでもPK戦の末に勝利し、実り多き2試合に幕を閉じた。
この貴重な時間のなかで悩みながらも自分のプレーを発揮することに集中をした選手たちを介していきたい。今回は、チームで唯一の1学年上の早生まれの選手として選出されたMF松本果成。怪我でスタートし、思うように出番が掴めずに苦しんだルーキーイヤーを通して手にしたものとは。
「本当はこの場にいてはいけない、チームの活動を優先するような立場でいなきゃいけないことは重々承知していますし、本来はそうあるべきだと思っています。でも、この活動に呼ばれたことは決してネガティブではないと思っています。自分のなかでは実戦で今の自分のプレーを見せられる大きなチャンスだし、今何ができて、何ができないのか、現在地を知るチャンスだと思っています」
第1戦目は3-5-2の右ウイングバックとして前半45分間と後半24分間からラストまで、第2戦目は同じ布陣の3バックの右センターバックとして前半45分間プレーした。
全日本大学選抜はプロ内定、プロ濃厚選手がずらりと揃うなかで、持ち前のスピードと突破力を生かしたドリブルからのクロス、182センチのサイズを生かした空中戦と球際の強さを発揮。前半にはクロスで吉田の決定機を2回演出した。全韓国代表戦ではフィジカルのある相手に対し、一歩も引かずに前半をクリーンシートとで終えた。
「全日本戦の試合の立ち上がりは相手のテンポ感がとても速くて、ちょっと飲み込まれそうな部分があったんですけど、守備の部分から入るという意識で少しずつ自分のリズムが生まれてきました。やはり試合に出ることは大事だと思いましたし、この経験は絶対に次に生かさないといけないと改めて思いました」
流通経済大柏高時代は、サイドバック、サイドハーフ、フォワードといろいろなポジションを経験した。3年生になってトップチームに上がったが、選手層の厚さとプレーの波が影響し、最後まで確固たるレギュラーの座は掴めなかった。
それでも182センチのサイズとスピード、前への推進力が高く評価されて、当時J1の湘南ベルマーレに加入。だが、シーズン開幕を負傷離脱で迎えると、その後もプロの壁に阻まれて、1年を通じてリーグ戦、天皇杯、ルヴァンカップの出場はゼロだった。
「本当に苦しい1年間でしたが、僕のこれまでの人生のなかで一番成長できた1年でもありました」
多くの高卒ルーキーがデビューしていくなか、焦りはあっただろうが、それ以上に発見の毎日が楽しかったという。
「プロに入って、より自分の技術レベルの低さを痛感しました。でも、それで絶望するのではなく、この環境で徹底して磨くことができると思ったんです。試合には絡めなくても、日々の練習でそこにフォーカスを当ててやることで、必ずここから成長できる、今より下に行くことはないと思ったんです」
全体練習では同じポジションの選手のプレーに目を向けて、真似をしてみたり、自分なりにアレンジをしてチャレンジをしてみたりした。全体練習が終わると真っ先にコーチ陣に志願をしてマンツーマン練習に付き合ってもらった。
「同期の石橋瀬凪は逆の左サイドですが、サイドからあれだけ個人で打開できるのはとてつもない武器だし、彼の積極性や技術は参考になりますし、ライバルとして意識していて、刺激を常にもらっています。それだけでなく、自分の中でも教えてもらったことや感じたことを次の日の練習でトライすることで、それが出来たときの喜びや発見があって、無意識のうちに出来たときは本当に『やっていてよかった』と思うんです。それがどんどんモチベーションとなっていたので、出られなくても前向きにやれていました」
1年間コツコツと積み重ねた練習が実を結び、昨年12月にはU-18日本代表としてSBSカップに出場。このU-18日本代表を率いていたのは、直前まで湘南で指導を受けていた山口智監督だった。
「智さんからもずっとアドバイスをもらっていたし、日々のトレーニングでしっかり僕のことを見てくれていた。U-18日本代表に選出してもらって、智さんの指揮のもとでプレーさせてもらったことは本当に嬉しかったし、感謝の気持ちが強かった。それにスペインとオーストラリア戦でスタメンフル出場をさせてもらって、海外を相手に自分の持ち味である突破や1対1の守備などが通用して、大きな自信を掴むことができた。改めて『この1年間の苦労は本当に無駄じゃなかったんだ』と思えたことが大きかったです」
2年目となった今年、2月22日のJ2・J3百年構想リーグ第3節のヴァンラーレ八戸戦で初ベンチに入ると、後半44分に待望のプロデビュー。出場時間はわずか1分程度だったが、大きな一歩となった。
「今年に入って、ちょっとずつ何かを掴みかけているような手応えがあったので、こうしてチャンスをもらえたことは本当に大きなことでした。だからこそ、昨年持ち続けた気持ちは絶対に忘れないで、こうした機会もチャンスに変えて、一歩ずつ前に進みたいです」
初心を忘れず、自分のベクトルを向けて前進し続ける。松本は周りに翻弄されることなく、これからも自分の力をコツコツと積み上げていく。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。












