和製ハーランドの意外な素顔「僕、優しいんですよ」 苦しい時に不意立たせる”儀式”「見るように」

仙台でプレーするFW宮崎鴻
昨シーズンのチーム得点王、郷家友太がヴィッセル神戸に移籍したJ2のベガルタ仙台の攻撃陣を、プロ6年目の宮崎鴻がピッチの内外で牽引している。筋骨隆々のボディから“フィジカルモンスター”と、試合中は長髪をオールバックにしてヘアゴムで束ねる独特の風貌から“和製ハーランド”とも呼ばれる26歳のストライカーは、激しさと強さ、熱さ、そして優しさを同居させながらJ2・J3百年構想リーグを戦っている。(取材・文=藤江直人)
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プレー中に目のなかへ入らないように、トレードマークの長髪をオールバックにして、ヘアゴムを2本も使ってしっかりと束ねる。さらに万が一、ほどけないように髪の毛全体をグリースでガチガチに固める。
ベガルタ仙台のストライカー、宮崎鴻は自分だけの神聖なる儀式を経ていつも試合に臨んでいる。
駒沢大学卒業後の栃木SC加入が決まった2021年の秋あたりから、前橋育英高校時代から丸刈りが定番だったヘアスタイルを変えた。できる限り伸ばす、という思いのもと、いまでは髪の毛が胸のあたりまで達する。
身長184cm・体重82kgの筋骨隆々のボディの持ち主は、高校時代から“フィジカルモンスター”と呼ばれてきた。昨シーズンから所属する仙台でも、自身のストロングポイントは変わらないと胸を張る。
「自分が一番パワフルなフォワードだと思っていますし、その部分では他の選手に負けたくないですね」
口ひげとあごひげをたくわえるいまでは、風貌はさらにワイルドさを増した。そこへ、冒頭でも記した独特の髪型が加わる。対戦チームのディフェンダーたちを畏怖させてきたからだろう。プレミアリーグを席巻しているノルウェー代表のストライカーになぞらえ、宮崎は“和製ハーランド”なる異名も頂戴している。
今夏の北中米大会で自身初のワールドカップに臨むアーリング・ハーランドも、プレー中は長く伸ばした金髪を後ろに束ねている。確かに共通点ではある一方で、宮崎は「僕、優しいんですよ」と苦笑する。
優しさの象徴として、仙台で売り出し中のスーパール-キー、古屋歩夢との微笑ましい関係がある。
栃木シティのホームに乗り込んだ、7日のJ2・J3百年構想リーグ地域ラウンドリーグEAST-A開幕戦。3-1で迎えた後半7分にゴールまで約25mの距離から、前へ出ていた相手ゴールキーパーの隙を見逃さずにループシュートを決めたアカデミー出身の18歳へ、宮崎は「自分もよく教えているんですよ」と目を細める。
「本当にストライカーらしい選手ですし、それでいて可愛いやつですよね。フィジカルがものすごく整っているし、相手への身体の入れ方や当て方なども非常にうまい。ただ、プロの世界では相手との駆け引きといったものもどうしても必要になってくるので、そういうものも自分がこれからしっかりと伝えていけたらと思っています」
責任感の強さも併せもっている。仙台では昨シーズンにチーム最多の10ゴールをマークし、キャプテンも務めた郷家友太がオフに古巣のヴィッセル神戸へ移籍した。同2位の8ゴールをあげていた宮崎は、背番号を「99」からストライカーの象徴でもある「9」へ変更。そのうえで決意を新たにしている。
「フォワード陣のなかで自分は引っ張っていく存在だと思っているので、パワフルさにこだわりをもってプレーしていきながら、ゴールという結果だけでなく、ゴールの数でも負けないようにしていきたい」
もっとも1月中旬から宮崎県内で行われた、開幕へ向けたキャンプは出遅れざるをえなかった。
「怪我ですね。右のハムストリングをちょっと肉離れしてしまった関係で、キャンプはリハビリ組でのスタートになりました。本当にラスト1週くらいから、部分的に練習へ復帰し始めた、という感じでした」
栃木シティとの開幕戦は欠場を余儀なくされた。そしてスタンドで応援した一戦で、仙台は菅田真啓、井上詩音、武田英寿、そして古屋がゴールで共演。J3から昇格を果たした相手をゴールラッシュで圧倒した。
「自分が出ていなかった試合で、あれだけ結果を出されるとやはり悔しいですよね」
激しい闘争心も秘める26歳は、リザーブでベンチ入りした14日の横浜FC戦へ期する思いがあった。
「今日は絶対にやってやろう、という気持ちがありましたし、それを前面に押し出せたのがよかったと思う」
こう振り返った宮崎がピッチに投入されたのは、両チームともに無得点で迎えた後半12分。そして同28分には小林心のパスを受けて値千金の先制ゴールを叩き込み、仙台を開幕連勝へと導いた。
そのまま敵地・ニッパツ三ツ沢球技場のゴール裏を埋めた仙台のファン・サポーターの前までダッシュ。何度も雄叫びをあげながら喜びを共有した宮崎は、仙台に移籍してからこんな思いを抱くようになった。
「苦しいときには、自分はファン・サポーターのところを見るようにしているんです。あれだけ大きな声援を常にくれたら、走らないわけにはいきませんからね。他の選手たちも同じだと思います」
威風堂々としたオーラを放ち、実は優しくて、それでいて熱い血潮もたぎらせる宮崎は敵地のゴール裏で瞬く間に味方の選手たちに囲まれた。そのなかには直前の後半27分に小林との交代でピッチを後にした古屋も、ベンチから真っ先に駆けつけてきていた。頼れる兄貴分として、宮崎が慕われる証となる光景だった。
勝利のヒーローは、昨シーズンはJ1リーグを戦った横浜FC戦を今後への試金石と位置づけていた。
「今日のような難しい相手に対して何ができるのか、というのがやはり一番大事になってくるので。そのなかでフォワードとしての仕事をしっかりと果たせたのは、またひとつ自信につながると思っています」
見すえるのは8月に開幕する2026-27シーズンでのJ1昇格。日本人の父とオーストラリア人の母の間に生まれ、高校でも大学でも日本一を勝ち取っているストライカーが、ピッチの内外で仙台を牽引していく。

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。




















