薄れるJ名門のブランド力「そういう時代」 戦力維持へ…鹿島が着手した“大改革”「呼べるように」

鹿島アントラーズ【写真:アフロ】
鹿島アントラーズ【写真:アフロ】

鈴木満氏が鹿島のスカウト事情を明かした

 鹿島アントラーズの歴史を知る生き字引、鈴木満氏。1996年から強化の現場を歩んできた彼が見てきた景色は、日本サッカーの育成と移籍の変遷そのものだ。かつて高校サッカーのスター選手たちがこぞって鹿島を目指した時代は終わり、今は10代で海外を目指すのが当たり前の時代。その激流の中で、鹿島はいかにして才能を確保しているのか。鈴木氏が明かしたスカウトの現場は、想像を絶する“総力戦”となっていた。(取材・文=森雅史/全5回の3回目)

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 Jリーグは2026年4月1日から、プロ契約可能年齢をこれまでの「満16歳以上」から「満15歳に達した日以降の、最初の4月1日以降」に引き下げることを決めた。つまり3月31日までに15歳になった選手は、翌日の4月1日からプロ契約を結べることになったのだ。

 この変更はクラブに、サッカー界にどんな変化をもたらすのか。スカウトしなければいけない選手の対象がさらに低年齢化するのではないか。鈴木氏はすでに対応済みだという。

「僕たちが強化担当をやっていた最初のころは、新卒選手のスカウトしかいなかったんです。今はプロのスカウトだけで5人います。他所の試合を見るスカウト、新卒を見るスカウト。あとはアカデミーにも専従で2人いるんです」

 かつてのスカウト体制はシンプルだった。高卒・大卒の即戦力を発掘する担当が2名ほどだった。だが現在は違う。プロのスカウトを増やすだけでなく、鹿島はスカウトするターゲットの低年齢化に対して、早くから手を打ってきたという。「今は中学生でユースに上げるためのスカウトもいますし、もっと言えば、小学生をジュニアユースに上げるためのスカウトをしています」。

 もはや高校サッカー選手権でのプレーを見るのでは遅すぎる。Jリーグの各クラブは、才能の原石を小学生のうちから囲い込む競争を繰り広げているのだ。「そういう時代になってきていますね」と淡々と語るが、その背景には、選手のキャリア観の劇的な変化がある。

「昔はJクラブに入って優勝するというのを目標にする選手が多かったですね。今は優勝できそうなクラブを選ぶよりも、早く試合に出て海外に行くという目的の選手が多いんですよ」

 Jリーグでのタイトルよりも、最短での海外移籍。そのために「加入即出場可能」「出番が得られそう」なクラブを選ぶ。かつてのように「鹿島に入れば優勝できる」というブランドだけでは、選手は振り向かないのだ。

 この変化を予見し、鈴木氏らが15年前から着手してきたのがアカデミーの大改革だ。鹿島という地理的なハンデを克服するために、人口の多いつくば市や日立市(ノルテ:茨城県北地域)に拠点を設立。そしてそこに優秀な選手を集めるための決定打となったのが「寮」の整備だった。

「寮ができてから、もっと全国的に選手を呼べるようになりました」

 サガン鳥栖が寮と充実した指導体制で育成の名門となったように、鹿島もまた、全国の才能を受け入れるハードを用意した。しかもアカデミーにはOBコーチングスタッフ、特に日本代表を経験した小笠原満男、本田拓也もアドバイザーやコーチとして名を連ね、アカデミースカウトには本山雅志もいる。

 今や中学生年代から寮に入り、鹿島のフィロソフィーを叩き込まれた選手たちが育ってきている。今年はユースから大川佑梧が昇格し、まだ2年生の元砂晏翔仁ウデンバと吉田湊海がトップチームとプロ契約。さらに、今後の鹿島を担っていく選手についても、中田浩二フットボールダイレクターを中心にリストで管理し、トップチームのこのポジションには誰を育てていくのか、ユース、ジュニアユースまでどうつながっているのかを把握しているのだ。

「年齢別にどのポジションに誰がいて、この選手が出ていったらユースのこれが来るはずで、というリストを作りながら編成を考えています」

 主力は3?4年でヨーロッパへと旅立つ。その前提で、小学生年代から網を張り、アカデミーで育て、トップへ送り込む。巨大化し、緻密化するスカウトシステムは、選手が激しく流動する現代サッカーにおいて、クラブが生き残るための生命維持装置そのものなのだ。そしてその点に早くから注目して体制を整えてきたのが鹿島の強さが連綿と受け継がれてきた秘密だった。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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