J初挑戦で0-6大敗「僕の責任」 厳しい船出も…元日本代表が残した”意外な言葉”「すごく楽しかった」

奈良クラブを大黒将志新監督
今シーズンからJ3の奈良クラブを率いる元日本代表のストライカー、大黒将志新監督が苦難の船出に直面した。ホームのロートフィールド奈良にJ2の徳島ヴォルティスを迎えた7日のJ2・J3百年構想リーグ開幕戦で、攻守両面で後塵を拝した末に0-6で大敗した。それでも試合後の公式会見で、新指揮官は「試合はすごく楽しかったです」と意外な言葉を残している。念願の監督業をスタートさせた45歳の現在地に迫った。(取材・文=藤江直人)
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待ち焦がれてきた監督としての初陣。しかも、場所はホームのロートフィールド奈良。最高のシチュエーションで臨んだ奈良クラブの大黒将志新監督は、まさかの大敗を喫した直後に意外な言葉を残している。
「試合はすごく楽しかったです」
昨シーズンのJ1昇格プレーオフで決勝に進んだ徳島ヴォルティスに前後半で3点ずつと大量6ゴールを奪われ、攻めては無得点に終わった7日のJ2・J3百年構想リーグの地域リーグラウンドWEST-A開幕戦。大黒監督は「負けたのはよくないし、0-6というのも全然ダメですけど」と前置きしたうえでこう続けた。
「ただ、これが終わりじゃないので。ここからがスタートなので。やっているサッカーは悪くないし、攻撃でも守備でもよかった部分を伸ばして、できなかったところを修正しながらやっていきたい」
プロである以上、悔しくないはずがない。それでも1月の始動時から取り組んできた点が垣間見え、練習でさらに突き詰めていく点も鮮明になった。だからこそ、今後へ視線を向けながら「楽しかった」と総括した。
川崎フロンターレのコーチだった大黒氏を新監督に迎えた奈良は、オフに多くの選手が入れ替わった。
11ゴールでチーム得点王だった岡田優希(福島ユナイテッドFC)、9ゴールで同2位の百田真登(ザスパクサツ群馬)、5ゴールで同3位の中島賢星(レノファ山口)、そしてプレータイムが2906分で最長だった神垣陸らの主力が移籍。期限付き移籍先のクラブからの復帰を含めて実の16人もの選手が新たに加入した。
その意味で注目された初陣の先発には4人の新加入選手に加えて、昨シーズンのプレータイムが1000分未満だった選手を3人抜擢。交代で起用した5人のうち4人が新加入選手で、システムは<4-2-3-1>だった。
キックオフを控えたミーティング。大黒監督は自身のイズムを色濃く反映させた声をかけている。
「選手たちには『結果に関しては僕が責任をもつから、勝とうが負けようが気にせず楽しくプレーしてほしい』と言いました。必死に戦ってくれた選手たちには感謝していますし、僕自身は敗戦の責任を受け止めていきます」
試合の均衡が破れたのは開始15分。右コーナーキック(CK)から左に展開され、クロスをファーサイドに詰めていった高木友也に押し込まれた。23分にはブラジル出身のトニー・アンデルソンの個人技でゴールをこじ開けられると、浮き足立った33分にはゴール前でのクリアミスを再び高木に押し込まれた。
気持ちを切り替えた後半は高い位置で攻撃を展開。前半よりもボールを支配する時間帯が増えながら、奈良のミスを見逃さずにカウンターを発動させてきた徳島の前に20分、28分、44分と失点を重ねた。
もっとも前半3本で、かつ枠内が0だったシュートは後半には8本に増えた。相手キーパーのファインセーブにあったものの、開始3分には新戦力の後藤卓磨がゴール左隅へ強烈なシュートを放っている。
大黒監督も「内容的にもチャンスがなかったわけではないので」と努めて前を向いている。
「プレスがはまっている場面も数多くあったし、ボールを奪った後のパスであるとか最後に決めるところは今後の課題だけど、そういうところで決めていけば5点くらいは取れたと思っている。失点に関しては映像を見直しますけど、防げる失点もあったので、まずはセットプレーからの失点を減らしていきたい」
昨シーズンの奈良はJ3リーグで9位に終わり、ホームの平均観客数はリーグワースト2位の2239人だった。一転して徳島戦の公式入場者数は3223人。大敗発進にもブーイングの類はいっさい飛ばなかった。
「すごくありがたかったですけど、そこに甘えているだけじゃなくて、やはり喜ばせないといけない」
ファン・サポーターの反応に感謝しながら、45歳の新指揮官は決意を新たにしている。
「ファン・サポーターの方々はどのような気持ちなのか、というのをチームの全員が考えないといけない。もちろん悔しがっていると思いますし、選手たちも絶対に悔しいはずなので、これを次節に向けてどのようにもっていけるのか。練習していくだけだし、そこは現場に、選手たちやスタッフ、そして僕にかかっている」
試合後のロッカールーム。ワールドカップ北中米大会後の8月に開幕する2026-27シーズンで優勝し、奈良が悲願としてきたJ2への昇格を目標に掲げる大黒監督は、選手たちと新たな目標を共有している。それは約3か月後の5月10日に、敵地ポカリスエットスタジアムに乗り込む徳島戦でのリベンジとなる。
「徳島さんとはアウェイでもう一回戦えるので、そのときは逆に僕たちが勝てるように成長していこうと選手たちには言いました。徳島さんは本当に強かったし、確かに今日は完敗だったけど、選手たちにとってすごくいい経験になった。まだまだ足りないと自覚して練習してくれると思うし、それは僕にとっても同じだと思う」
日本サッカー協会が発行する最上位の指導者公認ライセンス、S級ライセンス(現JFA Proライセンス)を取得した2024シーズンに枚方のヘッドコーチに就任。ガンバ大阪時代の同期、二川孝広監督(当時)の協力のもと、監督とほぼ同じ仕事をこなして2023シーズンは11位だった枚方をクラブ史上最高の3位へ躍進させた。
そして攻撃担当コーチを務めた昨シーズンの川崎は、総得点でJ1リーグ最多の「67」を叩き出している。ごく近い将来に監督を務める自身の姿から逆算して、周到に経験と実績を積む姿に魅せられた奈良の濱田満社長が出したオファーが、大黒氏を「勇気あるオファーをいただいた」と感激させて監督就任の運びとなった。
ジャージー姿で初陣に臨んだ大黒監督は、試合中もベンチやテクニカルエリアでほとんどアクションを起こしていない。試合後に臨んだ公式会見も、着席するなり「何か質問があれば」と切り出した。
Jリーグでは監督による総括から会見が始まる。その点を問われた指揮官は笑い飛ばしながらこう語った。
「総括って別に何なのかよくわからなくて」
延べ11のJクラブでプレーした現役時代は通算177ゴールをマーク。日本代表を含めて記録と記憶に残るゴールを決めてきた元ストライカーは、実は豪快さとおおらかさに緻密さをも併せもつ。モットーに「いい加減なサッカーをして勝った、負けたと言うつもりはない」を掲げながら、奈良を日々前進させていく。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。




















