チェルシーが危惧する「経験値の低さ」 オーナーの意向で編成…“諸悪の根源”となっている「若手路線」

チェルシーのリアム・ロシニア監督【写真:ロイター】
チェルシーのリアム・ロシニア監督【写真:ロイター】

チェルシーは今季マレスカを解任し、ロシニアを招聘した

 2月10日のプレミアリーグ第26節リーズ戦(2-2)で、初采配から10試合を7勝1分け2敗。チェルシーのリアム・ロシニア新体制は、まずまずのスタートを切ったと言える。

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 元日に退任が発表された、エンツォ・マレスカ前体制下でのラスト10試合は、3勝4分け3敗。不安定だったチームは、昨年12月のリーグ戦6試合で1勝に終わってもいた。

 1シーズン半というマレスカの在職期間は、トッド・ベーリー会長を「顔」とする、米国系投資家集団の現オーナーが雇い入れた監督陣では最長。UEFAカンファレンスリーグと、FIFAクラブW杯でタイトルも獲得した。しかしながら、チェルシーの地元ファンが、マレスカの事実上解任を惜しんでいるとは言い難い。

 志向するサッカーのスタイルも、その一因かもしれない。ボール支配とつなぎにこだわり、横パスやバックパスの多い“遅攻”が目立ち得るのだ。一昨季に2部優勝に導いたレスターでも、チェルシーによるマレスカ引き抜きを残念がるファンの声は、あまり聞かれなかった記憶がある。

 1月10日のFAカップ戦から指揮を執るロシニアは、同じポゼッション志向でも、前からのプレッシングや、パスの方向性からすれば、より積極的なスタイルを好むと見受けられる。ただし、マレスカより若い41歳で、監督歴は計3年というイングランド人の元SBは、チェルシー経営陣にとって、最も容易な引き抜き対象であったことが後任抜擢の要因。前任地のストラスブール(フランス1部)は、チェルシーと同じ経営母体を持つマルチクラブ制の一部だ。

 ファンにとって意中の人物でなかったことは、試合中の反応からも窺えた。ホームでの初戦となったリーグカップ準決勝アーセナル戦第1レグ(2-3)、先制されて前半を終えると早速、スタンドからは軽いブーイング。1月末のプレミア24節ウェストハム戦(3-2)では、2点ビハインドでの前半終了時に、ホーム観衆によるブーイングの嵐が吹いた。

 だがロシニアには、チェルシーのオーナーによるクラブ経営、さらに言えば「チーム作り」に対する免疫という利点がある。最終的にうんざりした様子だったマレスカのように、不満を募らせるリスクは低い。

 共同フットボールディレクター2名の他、選手のリークルート部門と育成部門のディレクター3名が序列的に上と言えるチェルシーでは、補強に関する監督の発言権が弱い。同格と位置付けられる医療部門の長からは、故障上がりの選手に関する出場時間制限を通達されもする。青年監督風のロシニアだが、こうした仕事環境は、ストラスブールでの1シーズン半で承知の上だ。

 より危惧されるのは、チームの若さと経験値の低さだろう。選手個々の若さ自体を問題視するつもりはない。むしろ、歓迎してもよい。現オーナーによる4年前の買収を機に、2021年CL優勝チームの解体と若返りが一気に進んだチェルシーは、今季のスカッド平均年齢もプレミア最年少の23.4歳だ。

 とはいえ、最年少チームであること自体が、成果のように語られ続けるのは如何なものか。チームの若さは、選手たちが集団として一緒に成長を遂げてこそ意味がある。若い顔ぶれの入れ替えが繰り返されるようでは、一貫性を欠くパフォーマンス、集中力の欠落、打たれ弱さといった、若いチームである故のデメリットを抱え続ける。余裕の2点リードだったはずが、PKで1点を返されて狼狽えたまま、その6分後に追いつかれた先のリーズ戦が最新例となった。

「こんなに声のないロッカールームは初めてだ」と言っていたのは、2022-23シーズン最終節後、ホームで引き分けたニューカッスル戦で暫定監督役を終えたフランク・ランパード(現コベントリー監督)だった。20歳前後の選手を次々に獲得する一方で、クラブが無視しているとさえ言える、高い経験値の持ち主。苦しい時に頼れる有経験者がいないチームの問題点には、翌シーズンに正監督となったマウリシオ・ポチェッティーノ(現アメリカ代表監督)も、続くマレスカも言及していた。

 諸悪の根源は、収益面での長期的な安定に主眼が置かれていると言われても仕方のない「若手路線」だ。過去3シーズン半の移籍市場に、プレミアでも最大級の補強予算を投じて置きながら、プレミアやCLで優勝の有力候補とは呼べないチームであり続けている。

『タイムズ』紙などの国内メディアが、オーナーの「真意が見えた」と報じたのは昨夏。23歳のウインガー、ノニ・マドゥエケをアーセナルに売却し、24歳のストライカー、ニコラス・ジャクソンを買取り義務付きのレンタルでバイエルン・ミュンヘンに放出するなどしたチェルシーは、移籍市場で3億ポンド(約640億円)台を回収した史上初のクラブとなったのだった。

 閉幕して間もない今冬の市場では静かだった。これが、チームの成長を辛抱強く見守る意思の表れであれば良いのだが、そうではないと思われる。筆者は、チェルシーの若手売買を未公開株購入による投資に例えた、ロンドン中心部の金融街で働く隣人の言葉を思い出した。

「出来るだけ買いためて、売り時に高い利益に変えるのが基本方針」と理解できるクラブは、「売り時」を待つための冬を過ごした様子だ。もはや戦力とはみなされていないが、27歳と脂が乗る年齢のDFアクセル・ディサシは、ピッチ上で買い手を募るかのようにウェストハムへとレンタル移籍。18歳で戦力化前のMFケンドリー・パエスも、“成長株”への準備段階として、リーベルプレート(アルゼンチン1部)へとレンタルされている。

 同時に、ラヒーム・スターリングという投資失敗例の処分も行われた。契約解除に応じた31歳のFWは、現オーナー下の獲得選手第1号だったのだが、完全な戦力外ながら、チーム最高レベルの年棒が不必要なコストとなっていた。同じ2022-23シーズンには、他に14選手が完全移籍で加入したが、うち5名が売却済みで、2名はレンタル移籍を繰り返す状態だ。

 そんなチェルシーに雇用されたロシニアは、初会見の席で、ファンだったというマンチェスター・ユナイテッドの「92年組」を引き合いに出した。同年のFAユースカップ優勝メンバーからは、ライアン・ギグス、ポール・スコールズ、デイビッド・ベッカムら6人の若手が、引き上げられた1軍でも優勝争い常連の主軸と化した。同様のポテンシャルが、自らの新任地にもあると言うのだ。

 しかし、決定的な違いが1つ。チェルシーのアカデミー卒業生は、売却益100パーセントの自家製として、移籍市場で“戦力視”される可能性の方が高い。本人は残留を望んだMFコナー・ギャラガー(現トッテナム)も、24歳だった一昨年にアトレティコ・マドリーへと売却された。当人が出場機会を求めて移籍を望んでいるとされ、今冬にエバートンへとレンタルで出た20歳のMFタイリーク・ジョージの換金も、「時間」ではなく「金額」の問題だろう。リーズ戦でのスタメンを見ても、リース・ジェイムズやリーバイ・コルウェルの怪我もあるが、アカデミー産は19歳のジョシュ・アチャンポンと、26歳のトレボ・チャロバーの両DFのみだ。

 大半を占める、海外から購入された若手にとって、異国のクラブであるチェルシーは、単なるトップレベルでの経由地となりかねない。エンソ・フェルナンデスとモイセス・カイセドの両MF、レンタル先のストラスブールでも監督だったロシニアの就任を境に、中盤中央に定着した感のあるアンドレイ・サントス、右ウイングの大器エステバンといった25歳以下の主軸は、当人が「動く」気になれば、相当な移籍金収入をもたらし得る。

 そして、チーム最大の攻撃タレント、コール・パーマーにも同じことが言えてしまう。国産だが、故郷マンチェスターはシティで育成された23歳は、2033年までの長期契約期間中、この1月にも興味が伝えられたマンチェスター・ユナイテッドが、優に1億ポンド(214億円弱)を超す移籍金を覚悟すれば、“心のビッグクラブ”へと去る可能性は十分。今季で丸10年となる、前回リーグ優勝からの時間が伸び続ければ尚更のことだ。

“ヤング・チェルシー”は、帳簿上だけではなく、最も肝心であるはずのピッチ上でのポテンシャルも高いはず。オーナーの祖国で制作された、ハリウッド映画のセリフに倣って言いたい。「Show me the money(カネを見せろ)!」ではなく、「Show me it’s not the money (カネだけではないと示してくれ)!」と。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)



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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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