大学中退→プロも…出番なく「消防士になろう」 祖父の死で決意「このまま終われない」

浦和との開幕戦に出場した天笠泰輝【写真:アフロスポーツ】
浦和との開幕戦に出場した天笠泰輝【写真:アフロスポーツ】

千葉の天笠泰輝「目の前のことを妥協せずに全力でやろうと心に決めました」

 やっとたどり着いたJ1の舞台だった。J1百年構想リーグ開幕戦、今季から17年ぶりのJ1復帰を果たしたジェフユナイテッド千葉の新戦力であるMF天笠泰輝が浦和レッズとの開幕戦のピッチに後半36分から立った。

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「短い時間でしたが、このフクアリの雰囲気をピッチで味わうことができたのは大きな刺激になりました。サポーターの一体感溢れる応援、味方と相手選手たちが醸し出す雰囲気は本当に『これがJ1か』と思いましたし、同時に少ししか立てなかったことが素直に悔しかったです」

 いろいろな思いが込み上げてきた。それもそのはず、今年でプロ7年目を迎える天笠にとって、これが初めてのJ1の舞台だった。J2のザスパ群馬に加入してから苦節6年半。この期間に何度も心を折れそうになったが、その目はJ1という舞台をずっと捉え、文字通り這い上がっていった。

 青森山田高時代、広い視野と的確な状況判断、精度の高い左足を武器にしたボランチとして攻守の中心となり、3年生時の高校選手権ではDF三國ケネディエブス(名古屋グランパス)、武田英寿(ベガルタ仙台)らとともに全国優勝を経験していた。卒業とともに関西大学に進学するも、「日本高校選抜のヨーロッパ遠征に参加をして、同年代やその下の世代が強烈なプロ意識を持ってプレーしている姿を見て大きな刺激を受けた」と悩みに悩んだ末に大学1年生を持って中退することを決意。そこからプロへの道に挑み、7月に地元のクラブでもある群馬入りが決まった。

 だが、2年目の2021年シーズンまでリーグ戦出場はわずかに2試合。天皇杯も1試合のみとほぼ出番をつかめないまま苦しい時期を過ごした。

「プロの壁と僕の覚悟がまだ足りなかったのだと思います。正直、もうサッカー選手を辞めて、父親の職業でもある消防士になろうと思った時期もありました」

 折れかかった心に力が篭ったのは2021年の出来事だった。祖父が闘病生活の末に他界し、おじいちゃん子だった天笠は悲しみに暮れる一方で、自分がサッカーをしている意義を教えられたという。

「闘病しているおじいちゃんが最後まで頑張ることができた理由が、『病気を治して孫の試合を観に行く』という目標があったからと親から聞きました。状態が良いときもあって、試合に観に行けるチャンスがあったにも関わらず、僕が全く試合に絡めなかった。結果として生前に見せてあげることができなかったけど、『このままでは終われない』と心に火がついたんです。自分のやれることは全部やって、それでもダメだったら仕方がない。ごちゃごちゃ考えずに、目の前のことを妥協せずに全力でやろうと心に決めました」

 迎えた2022年、大槻毅監督(ファジアーノ岡山トップコーチ)が就任するとキックの精度を評価されて左サイドハーフにコンバートされると、一気に信頼を勝ち取って1年を通してコンスタントに出番を掴んだ。2023年には本来のポジションであるボランチとして不動のレギュラーを確保し、昨年は大分トリニータに完全移籍。ここでもレギュラーとして不動の地位を築くと、J1に昇格した千葉からオファーが届いた。

「ザスパは僕の故郷のクラブであり、僕をプロとして拾ってくれたクラブ。今でもザスパの試合を観ているし、またいつか戻りたいクラブです。トリニータは大分という地域の人たち、サポーターの人たちが本当に素晴らしくて、特にアウェイには必ず多くのサポーターが駆けつけて全力で応援してくれる。『この人たちのために戦いたい』と心の底から思えたクラブでした。でも、僕はシンプルにJ1に行きたかったし、大学中退を決断してからずっと『J1でプレーできるようにならないと、僕は周りから認めてもらえないし、これまで下した決断を正解にできない』と思っていました。だからこそ、覚悟を持って決断をしました」

 心のどこかに引っかかるものがずっとあった。関西大は天笠が高3の春に調子を落とし、希望していた法政大学のセレクションに落ちて苦しんでいたときに、高い評価して熱心に声をかけてくれた恩がある。

「あそこで関西大進学を決められたことで、自分の調子がどんどん上がって選手権優勝にもつながった。大学生としての1年間も、黒川圭介(D.C.ユナイテッド)さんらと一緒にプレーできて、大学サッカーのレベルの高さを感じたし、サッカー以外のいろいろな友達もできて、本当に重要な時間でした。だからこそ、そのときにお世話になった人たちにもJ1でプレーする姿を見せたかったんです」

 1つの目標は達成したが、もちろん戦いは幕を開けたばかり。ここからはJ1のレギュラーとなり、さらなるステップアップをしていかないと、ただ辿り着いただけでは意味がないことを十分に理解している。

「ジェフは本当にレベル高いし、日々の練習の強度もすさまじい。一人ひとりのサッカー選手としての目標が高いし、誰もが『ジェフのために』という精神を持っている。僕も身も心もその一員にならないといけないし、誰よりも強い気持ちを持つ存在にならないといけない。常により上を目指してサッカーとジェフに真摯に向き合っていきたいと思います」

 まだまだ這い上がっている道の途中。フクアリで刻んだ一歩を1つの原風景にして、天笠は覚悟のシーズンを走り出した。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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